▽ story ▽

□“光の国の物語 T”
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chapter.04
暗闇


1週間前に公園でアキトと不思議な声を2人で聞いて以来、学校帰りには必ず公園で会った。
近況報告も兼ねて。
2人、不思議な声が聞こえる同士、一緒にいるのが・・・私は・・・心地いいのだ。

誰にも話せない秘密を抱えてる、仲間だから。

今まで誰にも相談出来なかった事が話せる相手がいる。
それだけでお互い心強かったのだ。
普通じゃない“共通点"を持った2人はスグに仲良くなれた。

「アキト、あれ以来・・・1人の時に声聞いた?」
「あぁ、もう毎日の様に聞いてるよ。」
「・・・私もなんだよねぇ・・・。」
しかも2人でいる時、その声は少し大きくなるのだ。
どうしようもない、叫びの様に。

2人でいる時間は、せいぜい学校が終わってからの2時間位しかないのに、何回も呼びかける声を聞く。
1人だったら怖くてたまらないけれど、同じ声を聞いている人が隣にいる。
それだけで、不思議とエルナは恐怖心が薄らいだ。

しかし、その日は今までとは違う声色だった。

その声が聞こえた瞬間、2人は顔を見合わせた。
「何?今の??」
私はアキトの腕を掴んだ。

“エルナ!アキト!
 助けて、早く光を我らに・・・・・!!”

苦しげな声が2人の心に響いた。

「俺、今まで名前しか呼ばれた事ないんだけど・・・」
「・・・私も・・。」

そう、これまで私達は名前以外のその声を聞いた事はなかったのだ。
これは明らかに2人に宛てたメッセージ。

「光を・・・・・て、・・・何?」
私はアキトに答えを求めるように目を向けた。
「俺だって分かんねぇよ・・・。」
それはそうだ。
アキトが知らない事は分かっていた。私達は同じ境遇なのだから。
ただ訳の分からない、言いようのない恐怖心がエルナを混乱させていたのだ。

「ごめん・・。」
私はアキトに謝った。
「・・いや、俺も強く言い過ぎた。ごめん。」
アキトもエルナ同様、混乱しているのだ。
取り敢えず落ち着こうと息を整えていると・・・、
突然、目の前にポッカリと暗闇が出来ていた。
普通の公園の夕暮れに、明らかにそれは、真っ黒な空間。
まるで、きれいな夕暮れ時の風景画を、歪んだ形に切り取ってしまった感じ。
そこだけ、不気味に真っ暗い、深い暗闇。

そして、その中から見た事もない、この世の者とは思えないケモノがゆっくりと現れようとしていた。

私達はベンチに座り、まるで映画でも見ているかの様に、そのケモノが地面に降り立つのを眺めていたのだ。

ケモノの目が、野生動物が獲物を狙っている時と同じ目をしている事に、気付いていながら、
私達は身動きひとつとれずにいた。

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