▽ story ▽

□“光の国の物語 T”
6ページ/20ページ

chapter.05
黒のケモノ


ケモノは自分の体を全て深い暗闇から出しきると、四つん這いになり、真っ直ぐに私達を目で捉えた。
ケモノは全身真っ黒で、目だけが白く光っていた。

固まっていた私達の体は、この頃になって、やっと動くようになったみたいだ。
アキトが私の腕をとって立ち上がらせてくれた。
「エルナ!走るぞ!!」
アキトが私の腕を引っ張り、ケモノによって塞がれてしまった公園の入り口とは反対の方向へ走って逃げた。公園の裏は森になっている。
この辺りでは珍しく、少し深い森だ。

走る私達を確実に最短距離で追ってくるケモノ。
私は迫りくるケモノへの恐怖心から、足をもたつかせ転んでしまった。
「エルナ!」
アキトが駆け寄り、手を差し出した。
私はアキトの手をとり、握った。
しかし、ケモノはスグそこまで追いついていて、容赦なく私達に飛び掛ってきた!

「キャーーーー!!」

―――やられた!!

と思った瞬間、目の前に眩しい光が現れ、目の前のケモノは跡形もなく消えていた。

それはアキトの手から放たれた光。

握られた手が熱い・・・・・光が溢れ出ている。
アキトは私の手を握り締めている方と、光を放ち、ケモノを消した手とを交互に見つめ、最後に私を見た。
「今の何だ?」
きょとんとした顔でアキトは言った。
きっと、自分の身に何がおきたのか分からずに混乱しているのだろう。
「分からないよ・・・、アキト、何かしたの?」
「いや・・・、俺は心の中で消えてくれって願っただけで・・・、そしたら本当に・・・ 」
手から光が放たれ、ケモノはその光で消滅したのだ。
アトカタもなく。

「心で願った通りになったのね、きっと・・この繋いでる手の中の光が関係あるのよね・・・不自然すぎるもの。」
「たぶんな・・・。」
とっくに不自然の領域を超えた話になっている。
分かっているけれど、これを何と表現したらいいのか、私もアキトも分からなかった。
まだ先ほどのケモノの事も現実に起きた事とは思えなかった。思いたくなかった。

アキトはふと、私の膝を見て、
「お前、膝、血が出てるぞ・・・」
転んだ時に擦り剥いたみたいだ。
「よし、俺が治してやろう!」
アキトは得意げにそう言った。
おちゃらけてでもいないと、何かに押しつぶされそうだったのだ。
「治れーーー!!」
アキトが私の傷に手をかざし、願った。

・・・が、何もおきなかった。
少し、ほっとした空気が二人を包んだ。
さっき起きた事はやっぱり夢だったのだと。
だから私も・・・、
「アキトは攻撃系なんだよ!
 回復系は私なんだよ〜!」
と、冗談でアキトの真似をして傷に手をかざし、
「治れーー!!」
と叫んだ。
すると、エルナの手から、光が溢れたのだった。
優しく暖かい光。

まさかの状況に、エルナもアキトもそれをじっと眺めていた。
傷は光に包まれ、徐々にきれいに治っていった。
傷が治りきると、2人は顔を見合わせた。

「う・・・、うそ・・。」
私は呆然とした。
アキトも目の前で明らかに動揺していた。

何なんだ?
これ・・・

その瞬間、

“助けて!!”

と、2人の心に、今まで聞いた事のないような叫びが届けられた。

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ