幻水
□★大きな木
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セラス湖にぽっかりと浮かんだ月。毎日はこんなにも忙しいと言うのに、不思議と眠れない日もあるもので。
大きな木
寝台に腰掛けて、はぁとセラフィーシュは息を吐いた。仲間集めにあちらこちらを奔走して、久し振りに軍師から貰った休みなのだが。
「……眠れない」
何故だろう。
特に寝苦しい夜ではない筈。
本などを読む気にもなれなくてセラフィーシュは部屋を後にした。
頑丈そうな上の枝に手をかける。乗り出した足元の枝に同じように体重をかけた。
よし、思った通りの頑丈さだ。
万一折れないかと密かに懸念していたロイは軽く息を吐いた。
一回確認したら怖いものはない。するすると慣れた感覚で上がっていく。
場所は、アスタリスクを湖越しに囲む森の一画。大して高さのないこの木は広く枝を張り、ほかの木より少し若い気がした。
湖の上を走る風が浮き上がって頬を撫でた。生暖かく濃い水の匂いも今は心地良い。
「……く」
今、何か聞こえなかったか。
ロイは視線を湖へ向けた。湖畔から聞こえたようなそれを探る。
「ロイ君」
「!?」
過剰に反応した肩。
……当たり前かも知れない。湖面から、自分が影武者をしている王子がひょっこりと顔を出していたのだから。
「ああ、やっぱり」