幻水

□★大きな木
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劣等感など感じる必要は、ない。分かってはいるのだが胸中には不快なもやもやが立ち込めてくる。

「……っ、めんどくせぇ」

舌打ちの後にでた呟きはいらぬ嫉妬に一人やきもきした自分に向けて。だったのだが。

ふと、視線を感じてそちらを見れば澄んだ水底の様な双眸がこちらをじっと見ていた。

「ん、だよ……」
「悩み事?」

しまった、とロイは空に目を転じた。目を合わせたままでいたら、いらぬ事まで言ってしまいそうな気がしたのだ。

「別に、そんなんじゃねーよ」
「本当に?」
「アンタに嘘付いてどうすんだよ」

上を仰ぎ見たままのロイに釣られセラフィーシュも空を見る。
あたり一面に散らされた光の粒。それらはよくよく見れば大きさもまばらで。

「綺麗だね」
「だな」
「ねぇ、ロイ君」
「あ?」

「いつかまた、こうやって星を眺められるかな?」


この大きな木の下で、二人。


微かに不安を帯びた問い。嗚呼、やっぱり彼も怖いのだ。

軍を率いる重責。
自分の選択に皆がついていく。

「……当たり前だろ」

ロイはすぐ近くにあるしなやかな白髪を少し乱暴に、わしわしと撫でた。

「その為にアンタ戦ってんだろ」
「……うん」

セラフィーシュはそっと目を伏せた。ふわりと吹きつける風はどこか暖かく、優しい。



end
















ロイに励まされる王子。
なんだかカップリング以前にただ親しいだけになってるよーな(汗
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