幻水

□月見酒
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特に思うことはなかった。

ただ、夜風に当てられながら酒が飲みたかった。ただそれだけで。

真っ暗な海面に浮かぶ月を眺めながら手にしたグラスに口を付ける。喉を焼くような刺激が瞬く間に喉を流れ、体に熱がじんわりと行き渡るような気分。

ふぅ、と短く息を吐くと甲板の端にゆっくりともたれ掛かる。

視界のど真ん中に映るは、丸い丸い金色の、月。その当たりに無造作に散らばる星々に27の紋章の話を思い出した。

そして、自分にはなんら関係のなかった筈の例の紋章を。

……それが起こした、忌むべき惨劇を。

二度と帰りはしない、彼を。

堅く目を瞑る。
忘れるつもりはない。しかし振り返るつもりもない。


グラスに残った酒を煽り、先程より長く息を吐く。
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