幻水
□カレノスベテ
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はにかんだような笑顔。
達観した物言い。
外見上の年齢は僕と対して変わらないのに、時折見せる、全てを諦めてしまったかの様な表情。
それが僕が知っている、彼の総て。
カレノスベテ
「……ロンド、居るかい?」
時間を気にしたのか、控えめにドアを叩く音と出来るだけ潜めたであろう自分を呼ぶ声にロンドは書物から顔を上げた。
「居ますよ」
「……入って、いいかな」
「どうぞ」
音もなく開かれたドア。
その向こうにいる少年の隣にはいつも付き添う少女の影はない。
その光景に僅かながら違和感を感じて、記憶を探る。
ごく新しい記憶は鮮明に浮きだしてくる。
嗚呼、そうだった。
女王奪還に失敗したのだ。
そうして護衛の少女は瀕死の重傷、彼の叔母は裏切り……。
(試合に勝って勝負に負けた……か)
取り敢えずはこんな時間にわざわざ自分を訪ねて来た彼の相手をしよう。
そう思い、自分の向かいの席を勧めた。