幻水
□呪われた英雄
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「ロンドォ!」
焦りを帯びたオベル王の一声より先に。
彼は左手を天高く、掲げた。
「我が真なる罰の紋章よ!」
これが最期だと知っていたのか。そう疑うほど、それは穏やかな顔をしていた。
呪われた英雄
閃光と閃光がぶつかる。
赤い閃光は、悲痛をもつ叫びに似た音をあげて紋章砲を打ち消した。
叫びが終わった刹那、彼は力を使い果たした様に、その場に倒れた。
……誰も、何も言わなかった。
静かに、小舟が用意される。そこに彼が横たえられて、初めて遅れてやってきた喪失感にすすり泣く声。
小舟にはオール、食料。
……しかし横に眠る彼が目を覚ますことはない。
水葬と言うのをテッドは初めて見た。
死した人を弔う。
その点は土葬も火葬も変わったものではない。ただ、船に乗せられた彼はまるで生きているように見えた。
眠っているようにも。
(本当に、死んだのか?)
じっと見つめても、彼が目を覚ますことはない。わかってはいるのだけど。