‥◆ BLEACH SIDE ◆‥
□月醒夜行 【修兵x弓親】
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べったりとした闇の中でそれだけ意思を持ったかのように白く淡い月が、誰かの肌を思わせる。
誰か。思い当たるのか当て嵌めたいのか。手繰ろうするそばから、するりと逃げていく。思考は形を成さず混ざり合わず、まるで墨流しだ。
ひとつの霊圧が近づき、止まった。
「眠れないの?」
不意に頭上から聞こえた声が自分に向けられたものだと気付くのに時間がかかった。
通りの良い声の余韻が闇に溶ける。
声の主を認識するよりも早く二言目が降った。
「それともサボリ?」
隊舎の屋根に寝転がったまま声を辿って器用に視線だけを動かすと、丁寧に切り揃えられた黒髪があった。月明かりを浴びて闇から浮かび上がる姿に目を細める。
「サボリじゃねえよ」
「じゃあ、傷心を抱えて眠れないんだ」
「……うるせぇ」
否定しようとしたが、あながち間違いではないことに気付き反論出来なかった。
今までに経験したことのない隊長業務に忙殺されるのを気遣った隊員が、当直勤務の交代を申し出てくれたのは良いが、思考回路は暗闇を彷徨うばかりで結局眠れなかった。これなら余計なことを考えずに済む分、仕事をしている方が楽だったと思っていたところだ。
「身体の調子はもう良いみたいだね」
傍に腰を下ろし振り向いたその顔には、気遣うような言葉とは裏腹に『心配』という二文字はちらりとも浮かばなかった。分かってはいても何だか腹が立つ。
あの時、自分は目の前の相手を間違いなく敵と認識し斬魄刀を抜いたが、果たしてその相手にはそんな認識はあったのだろうか。
どうすることが良かったのか、今でも分からないままだ。
「いつもあんな戦い方するのかよ」
「まさか。久し振りだよ」
「久し振り?」
「そ。前に使ったのがいつか覚えてないくらいにね。虚相手になんか使わないし」
「何で」
短い問いに、何を聞くんだとばかりに不審な顔をされたが、すぐに笑みに変わった。