long story

□Loved... 11
3ページ/9ページ



ふと横を向くと、大貴が申し訳なさそうな顔であたしを見ていた。

「大貴? どーしたの?」
「や、ごめんな」
「ん? 何が?」
「沙緒がワガママ言って…」

あたしはああそんなことか、と言ってまた沙緒ちゃんを見る。
背中だけでも分かる懸命さに自然と笑みがこぼれてた。

「かわいい子だね」
「沙緒のこと?」
「うん。一生懸命…健気だよね」
「……オレん家の近所に住んでたんだ。オレが中学上がった時引っ越してっちゃったんだけどさ。まさかこんなとこで会うなんてな」
「病気、なの?」

大貴は無言で頷く。
だからあたしはふーんとしか言えなかった。

「…いてっ」

急に短い悲鳴が聞こえて立ち上がると、沙緒ちゃんが眉をひそめて指を舐めていた。

「沙緒っ!?」

ガタガタと音を鳴らしてベッドから下りようとする大貴を慌てて止めると、あたしは沙緒ちゃんのところへ駆け寄った。

「沙緒ちゃん? 大丈夫?」
「あ、大丈夫っ! ちょこっと切っちゃっただけ…」
「よかった…」

安心してまた椅子に戻ると、大貴は悔しそうな辛そうな顔で俯いてた。
動こうとしても動けない身体に悔しさを隠し切れない、そんな感じ。

「大貴…?」
「…ゆい、ちょっと飲み物買いに行くの付き合って」
「え、あたし買ってくるよ?」
「いや、リハビリついでに」

大貴がゆっくり起き上がると、沙緒ちゃんが剥きかけのリンゴを持ったまま大貴の前に立ちはだかった。

「さぁも行く!」
「沙緒はリンゴ剥いてて」
「でもっ…」
「沙緒。頼りにしてるからさ」
「……わかったよぅ」

沙緒ちゃんが渋々皮を剥き始めたのを確認して、あたしと大貴は病室を出た。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ