short story

□オルトロスの犬
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「ふ、ざけんな…」
「このままじゃ死ぬよ。…早く」
「あんた……捕まえに来たんじゃねえのかよ…」
「人命確保が最優先。今死なせるわけにはいかないから」



くそっと呟いて、熊切はやっとゆいの肩にしがみつくように捕まった。

「こんなとこで生活してたんじゃ病気にもなるわよ」
「…るっせぇ……」
「今だけは、私が刑事ってことも、あんたが容疑者ってことも忘れてあげる。

だから安心していいよ」


安心なんて出来っかよ。
耳元で悪態をついたのが分かったけれど、何も言わずに歩いた。

















熊切が目を覚ますと、病院独特の匂いが鼻をついた。
大分体も楽になったようだった。

キョロキョロと辺りを見回した時、扉が開いた。


「起きた?」
「……」
「軽く肺炎引き起こしてたって」
「……」
「逃走ルート探したって無駄よ。この部屋は厳重に管理してあるから」

チッと舌打ちが聞こえた。

わざと横を向いた熊切を見つめる。
実際、ゆいは熊切が麻薬取引しているところも人殺しの場面も見ていない。
こうして見ているとただの男の子だ。
少し未熟な部分もあるが、それもまた恐怖心を薄らげる。

 
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