short story

□オルトロスの犬
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「篠嵜、私は本部に戻って報告するから」
「はい、このまま追います!」
「よろしく。気をつけて」

そう言って、上司の長谷部渚は車に乗り込んだ。

エンジン音を背中に受けて、張り裂けそうに脈打つ心臓を落ち着かせる。
ここからは単独行動だ。
緊張で上手く息が出来ない。


今追っている人物、熊切勝。
麻薬の取引や殺人で世間を騒がせている。



ゆいは今、奴が寝泊まりしているという廃ホテルに来ていた。

本人を目にしたことは1度しかないが、顔ははっきりと覚えている。
今にも噛み付きそうな、猛獣のような目――。



思い出しながら、胸に手を当てて深呼吸をする。

ガレキを退かしながら階段を上った。
音を立てて気付かれたら最後。
どうやってでも逃げ延びるだろう。
そしてこれまでの努力が水の泡となる。
それだけは避けなくてはならない。
出来るだけ息を潜めた。



 
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