short story

□I CAN'T SAY
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秋晴れ。
筆で描いたような雲が広がっている。


「きれー…」

思わず呟く。

「ほんとだ」

隣で彼も呟いた。
秋の空が一番好き。
悩み事があっても、雲を描いたその筆が塗り潰してくれる。
そんな気がするから。

横をちらりと見ると、彼は目をつむっていた。

「…なにしてるの?」
「風を感じてるの。」

目を閉じたまま口角だけニヤリと上がる。
それだけのことにもドキドキしてしまう。

だから彼の真似をして私も目を閉じた。
言うとおり、風が体を抜けていくのを感じる。

「きもちー」
「だろ?」
「え?」

やけに近く感じた大好きな声。
思わず目を開けると、すぐそこに顔があった。

「ぎゃ…!」
「ははっ、変な顔してやんの」
「…っ」
「ほらそろそろ行こうぜ。遅刻しちゃうし」

頬を膨らませながらも、彼の背中からは目が離せなかった。


 
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