short story

□いたみ
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――薮くんが、好きなの




キミの言葉が、まだ離れない。
ずっとこだまして忘れさせてくれない。


なんで俺じゃだめなんだ?






「あはははっ!光ホント面白いねー!」
「だろだろ?いやぁ、俺ってホント面白い!」
「自分で言うなっ」


今日も俺はクラスで笑いをとっていた。
ゆいにも届くように、大きな声を出して。
俺はここにいるんだと主張するように。

ちらりとゆいの背中に目をやるけど、ずっと変わらずイヤホンを耳に突っ込んで本を読んでる。
俺が何を言っても全く反応なし。
いや、聞こえてないだけか。


そんなゆいが顔を上げる時が今。
薮が教室に入ってくる時だ。

「うぃーす」
「薮おっはー!!」
「…光テンション高いな」
「薮ちゃんに会えるの嬉しくて」
「気持ち悪ぃぞ」

くしゃくしゃの笑顔で俺の横を通り、席に座る。
それはちょうどゆいの隣の席。

「…お、おはよ」

絞り出したようなか細いゆいの声は、教室の喧騒に消えて薮まで届かなかったみたいだ。
薮は後ろの席の男子と話したまま。

寂しそうに俯くゆいを見て、俺は居ても立ってもいられなくなって、


気付くと薮の席の前に立ってた。

「薮!」
「うん?」
「……」
「……?」
「………おはよう」

しばらくキョトンとしてから、薮が吹き出して笑った。

「なんだそれ。どーしたんだよ光」
「…いや、なんとなく」
「風邪でも引いてんのかよ?」
「今日も元気くんでーす」

いえーいと言って元気さをアピールしたはいいものの、別に何一つゆいの為になってないんだよな。
ゆいは未だに小説を読みながら横目で見るだけで。

あぁもどかしい。

「……なぁ、薮。ちょっと来いよ」
「あー?」

やっぱ変だぞお前、って言いながら薮は素直についてきた。
少し教室から離れた階段の踊り場で振り返り、薮の目を見る。

「噂で聞いたんだけどさ、クラスん中にお前のこと好きな奴いるらしいよ」
「えっ、まじで?」

一気にキラリと輝き出す薮の瞳。

「だれ?知ってんの?」
「まぁなー」
「教えてくれよ光ー!」
「……確実ってわけじゃないんだけど」






さぁ、ゆい。
俺ができるのはここまでだ。

あとは頑張れよ。




そうは思ってもやっぱり傷む胸は、しばらく落ち着きそうにないや。




 

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