執事が7匹。
□1匹目
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学校帰りに塾へ行き、帰宅の頃にはいつも空に厚い暗幕が覆いかぶさる。
空を見上げるたびに地方に住んでいた頃いつも見ていた空一面の美しい星空を恋しく思う。
自分は地方出身で、小学校まで向こうで生活していたが父の仕事の都合でここ、東京に引っ越してきた。
中高一貫の私立校に通い、5年目。 高等部2年、あたし西城椏夜[サイジョウアヤ]はいつもの人の多い通りを歩いていた。
「あっ!!……すっ……すみません」
地下鉄の出入り口から規則的に流れてくる人ごみを掻き分け、ぶつかりながらも進み行く。
……すると立ち止まった横断歩道の先に1匹の猫が佇んでいた。
『……こんな所に何で猫が……』
この距離だと肉眼で分かるのは、毛の色が白と茶色で、黒い首輪をしているということくらい。
やがて信号が青になる。あたしは動かない猫を見つめながら歩み寄った。
「っあっ……」
しかし猫は、背を向け足早に去ろうと歩き出した。
どうしてかあたしは猫の行く先が気になって、その姿を追った。
猫は時折歩く速さを速くしたり遅くしながら、しかし人よりも速い足取りで進んでゆく。
その度にチリチリと首元についている鈴が複雑なリズムで鳴る。
夜でも明るい大通りの歩道を、あたしは人を上手く避けながら猫を見失わないように走った。
走る、走る。
猫は止まらない。
ただ真っ直ぐにゴールの見えない歩道を進み続ける。
あたしはさすがに追うのに飽きてやめようと――したその時。
猫は横路地へと曲がり、そして今までよりも速い速度で進み始めた。