「間違えたら、キス一回だ」 勿論、カガリから俺に…ね。 ―――彼は、とんでもないことを言い放った…。 休日デート真っ最中。 …だが、そんな甘い雰囲気は今、この場所には無い。 休み明けに提出期限の課題が幾つか重なってしまったカガリは、アスランの部屋に持ち込んでテキストと睨めっこ。 解らないところがあればアスランに質問して…と、たった今本当の意味で、教師と生徒な関係になっている。 ずっと集中していたのだが、次第に集中力も途切れがちになり、注意力が散漫になってしまったカガリはケアレスミスを連発。 叱咤激励する意味で、アスランがそんなことを言ったものだから、カガリは変に意識し始めてしまった。 今まで、自分からしたことなんて、一度もない。 ―――そんなこと、出来ない…。 「ココ、違ってる」 「えっ、ウソッ!?」 テキストを見直すと、アスランに指されたその問題が指摘通り間違っていることに気が付く。 愛想笑いを浮かべるカガリに、アスランは楽しそうな面持ちで口を開いた。 「約束、…だな」 テーブルを挟んだ距離にいたアスランが身を乗り出したので、反射的にカガリは後退る。 「や、約束なんて、私はしてないッ」 一方的にそう告げてきたのはアスランで、自分は了承したつもりはないとカガリは慌てて告げる。 ―――刹那、規則正しい機械音が部屋に響き渡った。 「あ、……携帯ッ「そんなもの後でいい」 カガリの着信音はお気に入りの曲に設定にしてある。だから当然それは相手のものだと瞬時に理解できたのだ。 話題を摩り替えようとしたつもりはなかった。 ただ、もし急用だったら、と思っただけで。 キスが嫌だった訳なんてない。―――そんなこと、あるはずがない。 けれど、この状況下で自分が口にした一言が気に入らなかったのだろうか、遮るように発せられた声が低くなったような気がした。 アスランは素早く回り込んでカガリを壁際に追い詰め、抵抗されないよう両手首を掴むと壁に押し遣り唇を奪う。 「んンッ!!」 強く吸うように合わせた唇。暫くすると酸素を得ようと開いたカガリの唇を舌で抉じ開け、逃げる舌を絡めて吸い上げる。 「…んッ、ふ…、ンっ」 カガリは苦さに逃れたくて顔を背けようとするが、アスランの空いている手で後頭部を固定されびくともしなかった。 掴まれた手首は痛いほどで。 「やッ…ん、ン、…ふっ、ぅ…」 本当に苦しくなって、切羽詰ったようにくぐもった声を上げたその時、漸く解放された。 「カガリが素直に応じない罰」 感情を抑えたように低く、淡々と響くその声は、アスランが少なからず怒っている時で。 怒らせてしまった。 どうしよう。 今、謝ったら許して貰えるのかな…? 奪うような、そんな乱暴な口付けは初めてで、カガリは荒くなった息を整えることも出来ないままで怯えたように肩を竦ませてアスランを窺う。 「ほら。 ちゃんと口開いて、舌出せよ」 先程同様、低い声で告げられたその言葉に、カガリは観念したようにきゅっと瞳を閉じると、言われた通りに小さく唇を開いた。 「口、開くだけだと俺は言ったか?」 「……ッ」 追い詰めるその声に、迷うように唇が震えるけれど、暫くの後、躊躇いがちに、濡れた赤い舌が覗く。 恥ずかしそうに、けれど素直に応じるカガリに、アスランは満足そうに口許を攣り上げた。 「そう、イイ子だ…」 優しくなった声の響きに、カガリは一度短く息を吐き出す。 ―――本当に、可愛い。 実際は、何も怒ってなどいない。 従順な彼女の反応が見たくて。 嫌われたくないと、自分に必死に応えようとする彼女の反応を確かめたくて。 酷いことをしている自覚はある。 けれど、―――止められない。 「ん…」 指先で彼女の顎に触れて上を向かせる。 そっと唇を重ねて、感触を確かめるように啄む口付けを繰り返す。 先程とは一転して、優しく労わるようなキスに、カガリの強張っていた躯の力が抜けていった。 ―――判っていても、確かめたいことだってある。 けれど、これは―――絶対に秘密。 心中でカガリに謝罪し、サラサラとした金色の髪を撫でていると、躊躇いがちにそろそろと背中に回った手でぎゅっと縋り付いてくるカガリに少し驚いて、けれど、どうしようもなく胸が高鳴る。 きっと、夢中なのは、俺の方─── 「好きだよ、カガリ」 キスの合間に囁き、そして、重ねたそれを更に優しいものに…。 これも、愛情のカタチ 12.3.14(修正) 紗夜 |