「…っく、にぃちゃ…」 カガリが再度泣きだしそうになる瞬間、 遠くからカガリを呼ぶ声が聞こえてくる。 「!!…おにぃちゃん!」 カガリの表情が、ぱぁっと花が咲いたように明るくなる。 キラはカガリを発見すると走ってやってきた。 「すみませんッ 妹がご迷惑を…」 カガリの潤んだ瞳と涙に濡れた頬を撫で抱き上げてから、大人達に頭を下げるキラ。 「カガリちゃん、名前聞いたらおにいちゃんとしか答えてくれなくて……。でも、見つかってよかった…」 囲んでいた大人たちの1人にそう告げられ、キラも苦笑い。 丁寧にお礼を述べてその場から離れる。 二人きりなるとキラは抱き上げたまま、カガリに問い掛けてみる。 「カガリ、僕の名前は?」 「おにぃちゃん」 けろっと答えるカガリに吹き出しそうになりながらキラは考えを巡らす。 「…そうじゃなくて。 …えっと………カガリは、カガリって名前でしょ?」 そう伝えると、人差し指を口元にあて、首を傾げて、ん〜…と考えるカガリ。 「……きら!」 嬉しそうに答えたカガリに、やっぱり言葉の意味がわからなかったのか…とキラは肩を竦め笑う。 そんなカガリの頭を撫でながら顔を近付ける。 「カガリ…。これから僕の事はキラって呼ぼうね?」 「ふぇ…?」 どうして、と小さな頭を傾げるカガリ。 「カガリが淋しくて辛い時に僕の事をそう呼んだら、すぐ駆け付けてあげられるから…ね?」 キラは僕しかいないだろ?と、内緒話をするように小さく囁きながら微笑む。 「うんっ!」 その優しい微笑みにつられカガリも頷きながら、ニッコリと笑う。 そして、 初めての指切りをした。 「カガリ、僕の名前は?」 「きらっ!」 確認するように問い掛けると嬉しそうに笑ったカガリがそう答えた。 ───これは、幼いある日の小さな約束。 ―End― |