「済まない」 最後にそう言うと、涙目に顔を赤く染めた女生徒が走り去ってゆく。 変わらない光景にアスランは溜息を吐いた。 駄目だって判ってました。…必ず言われるその台詞に、それならば態々打ち明けないで欲しい、と切実に思う。 屋上に続く人気の無い階段の踊り場に独り取り残されたアスランだったが、気を取り直してそのまま上へと向かった。 「あ〜ぁ。可哀想にね、今の子も」 突如響いたその声に、アスランは再度溜息を吐いた。 屋上へのドアの窓から差し込む逆光で相手の顔は判らなかったが、自分にこんな物言いをする人物は他にいない。 「だから…お前は。 悪趣味なことは止めろ、キラ」 ドアから、少しだけ近づいてくる気配の相手に呆れたような声を零す。 いつかの、『たった一度だけでいいから課題を見せて欲しい』という約束は何処へやら、毎度毎度何かに付けて頼ってくるキラとはいつの間にか近くにいることが多くなっていた。 最初は心底迷惑そうにしていたアスランだったが、キラは空気を読むのが巧いのか、本当に不快に思うことはしないし、無理矢理深いところまでは踏み込んでこなかった。 そんな所にアスランがここまで気を許した要因の一つがあったのかもしれない。 徐々にお互いのペースを掴むと、そのテリトリーを共有するかのように一気に距離は縮まった。 秀才と問題児。…周囲はあり得ないと騒ぎ立てたが、今まで他人を寄せ付けないオーラを纏っていたアスランの物腰が多少柔らかくなったのはその後だった。キラに関して言えば、以前より出席日数は増えたし、課題の提出も期限通り(これはアスランが毎回傍で煩くお小言を零すからなのだが)となった。 「やだなぁ、アスラン。人聞きの悪いこと言わないでよ、いつも偶然。しかも、先にココにいたのは僕」 「…どうだか」 「酷いなぁ…。屋上の鍵、壊れてるって教えてあげたの僕だよ?…秘密、教えてあげたのにさ」 キラはブツブツと文句を言いながら胸ポケットからペンを取り出し、その中から隠していた細長い針金のようなものを取り出すと鍵穴に差し込み、意図も簡単に南京錠を開けてしまった。 |