「誕生日、おめでとう」 準備室に入って待っていたものは、アスランの優しい笑顔と囁く声だった。 「どう、して…」 ―――知ってるの?と告げる前に左手を引かれ、手のひらをアスランに差し出すような形になり、微笑んだままの彼の手から、綺麗にラッピングされた箱を乗せられる。 「開けて見て?」 信じられないとばかりに、カガリは手のひらに乗せられた包みとアスランとを何度も交互に視線を泳がせた。 「ほら、早くしないと魔法が解けちゃうかもしれないよ」 からかうような物言いをして肩を竦めて笑うアスランに口を尖らせて見るカガリだが、差し出されたものへの好奇心には勝てず、本当に開けてもいいの?と窺うように躊躇いがちな瞳を向けると柔らかく微笑んだ彼が頷く。 ピンクのリボンを解いて箱の蓋を取ると、更にその中に素材の違う箱のようなものが入っていた。 「わぁ…」 その箱を開くと、ネックレスがキラキラと光っていた。 そのトップには2つの色の宝石―――翡翠色の宝石と、光の加減で透明や銀色にも見える宝石だった。 その宝石がカガリにはそれがどんな名前でどんな価値があるかは判らなかったが、実際は、誕生石のエメラルドとダイヤが飾られているもので。 「気に入って貰えた?」 「うんっ!! ありがとう。すごく嬉しいっ」 満面の笑みでそう言うと、チェーンを手に取り光に反射してキラキラと輝くネックレスを見つめたままのカガリを促し拝借したそれを、背後に回って後ろから着けてやる。 嬉しそうに首許の存在を確かめるように手を当てるカガリが愛しくて、アスランは無防備な項に唇を這わせる。 「んっ…、やぁっ…」 驚いたようにびくりと震えたカガリがその身を硬くするのを感じたアスランは不思議と高揚感に満たされていく。 彼女を乱したい、そう思う。…もっと。 ―――けれど。 明るい内から不謹慎な考えだと独りごちるように鼻で笑い、しかも、自分はまだ仕事が残っていると、思い留まる。 「…タイムアップだな」 「あ…」 「ごめん、会議の時間だ」 あやすように髪を撫で、絡めた指先を引き寄せてその手の甲にリップノイズを立ててキスをする。 アスランは―――、ずるい。 ―――意地悪に翻弄して、その癖、直ぐに突き放す。 「続きは、また今度…してもいい?」 ―――でも、決して離してはくれない。 「カガリ?」 「まっ、魔法が使えるんだったら…、わ、私がどうして欲しいかぐらい判るだろうっ?」 頬を染めて唇を噛み締めるカガリが恥ずかしそうに視線を逸らす。 「もしかして…、このままここで、シて欲しい…とか?」 「っ、違うっ!!」 「…だろうな」 全力で否定されてしまったなとクツクツと笑うアスランは、そっとカガリの顎に触れて上を向かせ、そのまま唇を重ねた。 拗ねていたはずのカガリも拒絶はしないで、それを受け止める。 「ん…」 短時間の触れるだけの口付けの後、アスランは耳許に唇を寄せて囁く。 「今夜、電話するから…待っててくれる?」 甘く、蕩けるようなその声で、熱い吐息を掛けられる。 彼は電話を毎晩くれる。だから、この約束は他人から聞けばおかしいと思うのかもしれない。 きっと、いつものように他愛のない会話をするささやかな時間。 けれど、―――少なくとも―――カガリにとっては、「アスランが」そう望んでくれた、という大切な約束。 カガリと別れ、会議の資料を手にしたアスランはパソコンの電源をオフにして席を立つ。 「魔法、ね…」 『魔法』の種明かしをすると、それは―――彼女の兄、だった。 キラが昔から溺愛している妹の誕生日―――学生の頃、何度かプレゼントの買い物に付き合ったことがあるし、大切な日だと、何度も何度も告げられた為であって、寧ろ、その状況で覚えていない方がおかしいのだ。 こんな所で役に立つとは、何とも皮肉―――。 「―――そろそろ、本当に伝えないとなぁ…」 敵意を示した相手に対して、表情的には笑っているのに恐ろしいくらい冷ややかな瞳を向けている時のキラをいつも横で見ていたアスラン。何故か今、その時の彼を思い出してしまった。 髪を掻き上げ溜め息混じりに小さく呟いたその響きは、静まり返った室内に直ぐ溶け込んで消えていった…。 −End− |