最近気に入って通うボックスタイプのカウンターのBar。 いつも同じ席に腰掛ける。独りになって、何も考えずに煙草を銜え、不快にならない音量のBGMに耳を傾けて、ただ、時が流れる。 向こう側のカウンターの先に広がる大きな窓ガラスから見える殆ど空しか見えない夜景が心を落ち着かせてくれる。そんな雰囲気のこの店がアスランは気に入っていた。 そして――― 外の景色を眺める視界の片隅に映る、綺麗で凛とした雰囲気の、光。 何時からだろう。 その存在に気が付いたのは… 何時からだろう。 綺麗な金色のその髪に指を滑らせたいと思うようになったのは… 何時からだろう。 澄んだ琥珀色の瞳に自分の姿を映したいと思うようになったのは… 何時からだろう。 彼女に、触れたい。 ―――そう思うようになったのは… Midnight cruising −1st night− 今日も彼女はアスランとほぼ真向かいのカウンターの席に腰掛けていた。 ―――彼女も、自分と同様にいつも同じ席、だ。 ブルーのカクテルをゆっくりと艶やかな唇に運び、時折マスターと会話をしながら見せる笑顔が、アスランの瞳に焼き付いて離れない。 暫くすると、店の入り口が開いた気配がし、その瞬間に彼女の瞳が一層優しいものになる。 入って来た客は、迷わずに彼女の元へ向かい隣へと腰掛ける。 彼女は髪を掻き上げながら身体を横に向け、その相手と顔を向き合わせる。 ―――あぁ、何故。 彼女に恋人がいるのだろうか… いや、いない方がおかしい。 それは判っている筈なのに、彼女の視線を一身に受けるその相手に苛立ちにも似た感情が渦巻く。 数分後、彼女の相手は携帯電話を片手に店の外に出て行った。 それから暫くした後、鼻先の辺りに右手を縦に挙げ謝るような仕草で戻ってきた相手は急用らしく、再度着席することもなく足早に彼女の元から去ってしまった。 彼女は小さく息を吐くと、残っていたカクテルのグラスを持ち上げゆったりとした仕草でそれを眺めていた。 ―――刹那、 アスランの瞳と彼女の瞳―――視線が、触れ合った…様な気がした。 というより、アスランが慌てて瞳を逸らしたのだ。 無意識、とは怖いものだ。 アスラン自身はそこまでじっと見つめていたつもりは無いのだが、相手が視線に気が付く程だということは事実。 顔を上に向けられない状態で、どうしたものかと考え込んでいると、目の前に自分がいつもオーダーする酒の入ったグラスと同じものがマスターから差し出されていた。 追加したつもりは無いアスランは驚いたような視線を送ると、こちらのお客様からですと柔らかな微笑みで指し示される。 その示された場所はアスランのすぐ隣で、顔を向けるとそこには、カウンターの向こう側にいた筈の彼女が立っていた。 「隣、座っていい?」 間近で見た彼女の、想像していたよりも艶やかで滑らかな唇から零れたのは、信じられない言葉、だった…。 (07.6.14) Back |