Midnight cruising

□−6th night−
1ページ/1ページ









見つめ合ったまま動けなかった二人。
けれど、スーツ姿の男が視界に入ると、明らかに慌てた様子のカガリに手を振り払われてしまった。



「お嬢様。お時間が過ぎています、参りましょう」



先程言っていた監視役なのだろうその男はカガリが頷くのを確認してから、促すように出入り口のドアへと手を差し出していた。



「ごめん、な」



小さく呟いたカガリは踵を返して歩き始めると、その後にスーツの男が続く。




店を出てゆくカガリは、一度も振り返らなかった―――。














始まることさえなく、終わってゆく…。




例えるなら、俺と彼女はそんな関係。




それでも、




目の前にいた彼女だけが、たったひとつの、―――真実。




豪華客船へと招待することは出来ないけれど。




最初で、最後に、―――君を、連れ出したい。




――― 一夜限りの、夢物語へ。








Midnight cruising
−6th night−









急いでその後を追い掛けたアスランは、ビルの目の前に停めてある高級車に乗り込もうとしていたカガリを視界に捕らえると、その直ぐ後方にいる監視役に勢い良く体当たりし、その男が怯んだ瞬間を狙って、カガリのその腕を引き寄せた。



「えッ…?」



―――行くぞ。そう低い声で告げたアスランはそのままカガリの手を取ると、その場を走り去る。



後方から男が何かを叫んでいたような気もしたが、そんなことに構ってはいられなかった。







*****







一気に走り、誰も追ってこないことを確認すると、アスランは近くにあった手近なホテルへとカガリを連れた。
部屋の扉を潜ると漸く掴んでいたその手を離したアスランはソファへと腰を下ろす。



「何でっ…こんな…」



引き寄せられた腕に引き摺られるように付いてきてしまったカガリは荒い息のままでアスランに問い掛ける。




「最後に一晩くらい、羽根を伸ばしたっていいだろう?」



殆ど息の乱れていないアスランの一言に、今の状況に頭を抱えるような仕草でカガリは首を左右に振った。



「無理だ。…連絡をしたところで、許可なんて…貰えない」


「じゃあ、連絡しなければいい」


「今まで、無断外泊なんてしたことない」


「じゃあ、してみたらいい」



何度もあっさりと言い放つアスランにカガリは信じられないという眼差しを送る。



「そんな、簡単に…」



とうとう両手で顔を覆うようにしたカガリに、アスランは更に追い討ちを掛ける。








「このままずっと言いなりになって生きていくのか、君は?」







訝しげな視線を送ってくるアスランの真っ直ぐな瞳に耐え切れず、カガリは俯いた。




「……だって…」




今まで両親に言われた通りの毎日を送ってきたし、逆らったことなど一度もない。
カガリにとってはそれが当たり前のことで普通なのだ。




「無理だよ、こんな…。今頃大騒ぎしている」




緩く首を振るカガリに構わず、アスランは距離を詰めた。




「今も携帯は持たせて貰えなかったんだろ?だったらGPSも使えない。君の居場所を把握するのは難しいな」




可笑しそうにフッと小さく鼻を鳴らしたアスランの腕がカガリを捉えようとすると、反射的に後退り逃れようと背中を向ける。





彼女の目の前には廊下へと続くドアがあり、逃げようと思えば今すぐそのドアを開いて外に出られる位置にあった。―――けれど、アスランは逃すつもりは毛頭ない。





「君は、こうやって自由に過ごせるのは最後だと言った。
…なら、最後にハメを外してみたっていいじゃないか」





「………」






カガリは答えなかった。
―――いや、答えられなかったのかもしれない。







そんな彼女を、アスランは背後から優しく包み込むように抱き寄せる。





困惑したままで事態を全て把握出来ていないせいか、カガリから抵抗らしい動きはない。





アスランが白い首筋に唇を這わせると、漸く驚いたように身を硬くする彼女から、仄かに甘くいい香りがした―――。





(08.2.14)

Back



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ