プリズム

□プリズム 〜第壱章 迷子の騎士と青年〜
1ページ/11ページ


 八年戦争終結から三年。西の国境から程近い隣国との交易の要所、タルタンは、王都を除く主要都市の中で、いち早く復興を遂げていた。

 東西にのびるメインストリートには商店が競うように立ち並び、その前を人が流れて行く。隣国の珍しい織物や陶器なども、この街では当然のように店先に並ぶ。

 大勢の話し声と物売りの呼び声が響き、食べ物屋からは食欲をそそるにおいが漂ってくる。街はなかなか賑わっていた。

 その喧騒の中を、一人の青年が慣れない様子で歩いている。彼の纏うマントやブーツは、長旅のせいか埃っぽく汚れていた。年の頃は二十歳前後。背は決して高くはないが、少々細身ながらも均整のとれた体つきをしている。短く切ったやや癖のある蜂蜜色の髪、猫のようにつりあがった目は澄んだ琥珀色で、光の加減によっては金色に輝いて見えた。

 青年は先ほどから中央広場の方に向かって――正確には向かおうとして――いるのだが、人の波に押されてうまく進めていなかった。そのことにイラつき始めていた彼は、南の方に延びている細い路地を見つけると、これ幸いとばかりにその中に入っていった。



 だがこの数分後、彼は自分の選択が誤りであったことを知ることとなる。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ