短編小説

□蒼い夜 銀の月
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ああ、少し早まったかもしれない。


「また、お前か」
約一週間前の深夜、気まぐれで声をかけた少年は、昨日までの六日間と同じく、公園でバイト帰りの私を待ち伏せていた。
「……何処にいようが俺の勝手だろ」
「ああまあそうだが」
時間を考えろ帰れ未成年、とは言わない。言っても無駄なのはこの一週間で十分学んだ。
「………で? 何処まで付いて来る気だ?」
「アンタに付いて行ってる訳じゃない。たまたまこの道を散歩してるだけだ」
いけしゃあしゃあとのたまう少年に頭痛がしてきた。

何故か出会った翌日から、こうして後を付いて来るようになった。理由を聞いても先のようにかわされてしまい、私もそれ以上は追求しないので真意は不明のままだ。

つかず離れず付いて来る。ストーカーかとも思うが、けれど不思議と嫌ではない。
うっかり懐かせてしまった野生の動物が、何処までも後を付いて来るような、不思議と暖かな気持ち。
しょうがないなと、頭を撫でてやりたくなるような。


不意に思い出す、初めて会った時の少年の目。そこに含まれていた感情。
けれどそれは、本当に彼の感情だっただろうか…?

…………ああもしかして本当は……本当に寂しかったのは…




「…………私か」

呟きが聞こえたのか、いぶかしげな視線を送ってくる少年に、何でもないと首を振って空を見上げた。月が明るい。蒼味を帯た銀の月。


むかし誰かが言っていた。
『うさぎはね、さみしいと死んじゃうんだって』

じゃあ人間は?


……………どうだろう。分からない。
何時か分かるかもしれないけれど。
少なくとも、私は今は、寂しくはないから、だから、



分からない。

それは、きっと幸福な事だ。




「…なあ、どうせなら隣を歩いたらどうだ?」
「…………………は?」
「同じ方向に行くんだろう? なら、そんな後ろにいないで一緒に歩こう。…たぶん、その方が楽しい」


驚いたような、なんとも言えない顔がおかしくて、思わず笑みがこぼれた。


少しでも長く一緒にいよう。
寂しい時間が、ほんの僅かでも減るように。
彼も同じ思いだと、自惚れながら。



END

===========
恋愛風味………?
……………あれ…?

気が付けばヒーローがストーカーに……(汗)
二人とも名前が一切出てこないし(--;)

ああそしてやっぱり一人称は混乱します。普段書かないので…(>_<)
文章が巧い方が羨ましいです切実に!



最後まで読んでいただきありがとうございました。
拙作ですが楽しんで頂ければ幸いです。
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