企画

□早口言葉は「愛してる」
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こんなことをもし流川くんに言ったら、私は彼に重い女だなんて思われるのだろうか。


でも聞きたい。
一言だけ
「あたしのこと、どう思ってるの?」
って。

べつに彼の口から「好きだ」なんて聞けるなんて、さらさら思ってない。
だけど、それらしい言葉だけで良いから。一言だけ…。



「やっぱり重いかなぁ…」



はぁと溜め息を吐いて、夕日に染まりつつある空を教室の窓からぼんやり見つめる。
教室のこの場所で見るそれは、もう何度も何度も見たことある景色。
一つだけ違うのは、ちょっと前までキラキラ輝いていた夕日のオレンジが、重たく澱んだような色に感じるようになったことだろうか。

それはもちろん夕日のせいなんかじゃない。
紛れもなくあたし自身の問題。



流川くんと付き合ってから、毎日毎日下校時間ギリギリまで練習している彼をひたすら待っているあたし。
自分で言うのもなんだけど、本当に健気だと思う。



なんであたしがこんなことしているのかと聞かれれば、答えはもちろん彼と付き合っているから。

ただし
あたしは彼に好きとは言われたことがなかった。

そして、冒頭の溜め息に戻るのである。



「帰っちゃおうかなぁ…」



何度目かの虚しい独り言を呟いて、思い切って席を立った。
付き合ってから、彼と一緒に帰らないのは今日が初めてになるかもしれない。


そんなことを考えながら、スクールバックを肩にかけて廊下に向かう。

しんと静まりかえって夕日色に染まった廊下に、自分の足音だけが響くのはなんだか不思議な感覚だ。



「何処にいく?」



後ろから突然聞き慣れた声に呼び止められて、ビクッと身体が反応した。
自分だけだと思っていた廊下に、まだ人がいたようだ。
それも



「流川くん…」



彼の名前を言いながら、おずおずと振り返る。
そこには、いつもの感情の読取りにくい表情の流川くんの姿。



「何処にいく?」


「えっと、…、もう帰ろうかなぁ…なんて…」



さっきと同じ質問をする流川くんに、何故だかオドオドしながら答えるあたし。



「なんで?」


「・・・・・・・・・・



    好きだって言ってくれないから?」




しまった。
と、言ってから後悔する。
さっきまで、ぐるぐるそのことばかり考えていたせいかつい口からでてしまったようだ。


は、恥ずかしい…。


俯いたあたしに、彼が近付いてくる気配があった。
ビックリして顔を上げると、彼が珍しく困ったような顔をしていた。

その反応にポカンとしていると、流川くんは唐突に口を開いた。



「好きじゃない」


「えっ!?」









愛してる。










確かに、
彼の口は
そう動いた。





早口言葉は「愛してる」
それだけで、あたしの世界は一変する。
だってほら
夕日がキラキラ綺麗。


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