企画
□もう一歩
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好きやねん。
とか
愛してんねん。
とか。
関西人は、本当にこんな風に告白するのだろうか。
それを確かめる術なんてないだろうし、そこまで深く知りたいとも思ってなかった。
それはもう、1年前の話。
今あたしは、父の転勤で大阪ゆーとこにおります。
君に幸あれ!
こんなこと言ったら、怒られるだろう。ど突かれるかもしれない。
なにをきどってんねや、とか、睨まれるかも…。
賑やかな教室。そこで飛び交う言葉たちは当たり前のように関西弁で、今目の前にいる人物も勿論今まで馴染みのない言葉を話す。
まだ慣れない言葉は、正直居心地悪かった。
「なんか、南くんと話してると宇宙人と話してるみたい」
あ、言ってしまった。
だけど、口からスルリと出てきた言葉は消える訳なくて。
案の定、当事者である同じ部活の南くんに、思いっきり不機嫌そうな顔をされた。
「それはこっちの台詞じゃ、ボケ」
やっぱり南くんは怖かった。なんて言うか、関西弁はキツく聞こえる。
それにビクリとあからさまに反応するあたしに、彼は気まずそうに頭をかいた。
「こんなんでビクつくなや」
「ビクついて、ません!」
「そんなんで、意地はるもんか?」
深い溜め息を吐いて、南くんは長い足を組み直した。それは、気まずくなった時の彼の癖なのかもしれない。
以前彼があたしを怖がらせた時、居心地悪そうに足を組み直してから、無理矢理話を変えられたのを頭の隅で思い出した。
彼はこう見えて優しいらしい。
「大阪は好きになれんか?」
「違う違う!」
慌てて否定するが、南くんは疑わしげな視線しかくれなかった。
「本当だからっ!」
「ほんま…か?」
「か、関西弁がちょっと苦手…かなぁ?」
彼の目力は凄いと思う。彼の目をうっかり見つめてしまった途端、あっさり白状してしまうほどに。
「俺は、お前の標準語に慣れんわ」
「ひっどーい」
「どっちがや」
そして訪れた沈黙は、びっくりするくらい重たい空気を宿していた。
「お前のせいやからな」
「なにが!」
「ここらの女子は、こんな沈黙つくらへん」
「な!あたしは大阪出身じゃないし、好きになる予定も南くんのせいでたった今なくなりましたー!」
沈黙は、いつの間にか意地の張り合いに変わってしまった。
南くんはあたしを睨んでるし、あたしはあたしで心にもないことを言ってしまう。
睨み合いの末、諦めたのは南くんのほうだった。
「ほんなら。ちょっとイントネーションがちごうても、お前が喜ぶやろう言葉を贈ろうやないの」
「言ってみれば?」
「好きや」
「…は?」
「…は?ってなんやねん」
「ごめん、もう一回言って」
「もう言わんわ」
珍しく焦っている様子の彼。
こんなに焦るんだったら言わなきゃ良いのに…ま、嬉しいけど。