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□不器用さん。
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「陛下少し休憩にしましょうか。」
にっこり笑って、俺はいつものように救いの手をさしのべる。
有利は俺の声を聞いた途端「助かったぁ…」と、心底疲れ切ったような声で机に突っ伏した。
今はお勉強の時間だ。
勉強が心底苦手な有利は、さっきから護衛についていたコンラッドをちらちら見て助けを求めていた。
その、漆黒したうるうるした目でこっちを見ている有利を、一通り堪能した後…俺はやっと救いの手をさしのべたのだ。
もうちょっと二人きりで居たかったのであろうギュンターは、少し不満気な声を出した。
しかしそれをあっさり無視して、俺と有利は、通称勉強部屋から抜け出した。
「あー。疲れた…ギュンターやる気満々だし…」
勉強を教えている時のギュンターを思い出したのか、有利は眉をひそめる。
「ギュンターは、早く陛下に独り立ちしてほしいんですよ。」
「そうかぁ?」
他愛も無い会話をしながら、俺たちは食堂へ足を進める。
よっぽど疲れたのだろう。空ろな目した有利は、何気ない風にポツリと呟いた。
「コンラッドってさ、本当良い奴だよなぁ」
「なんですか突然…」
俺の苦笑を余所に、彼はしみじみといった様子で前を見つめたままだった。
コンラッドは、遠くに視線を向けた有利の横顔を、そっと窺い見る。
勉強明けのせいか、ぼ〜っとしているようだった。
早く何か食べさせなければ…
今までの経験にものをいわせ、そう判断したコンラッドは、少しだけ歩調を速めた。
そんなコンラッドの心配をよそに、有利はまたボソボソと呟く。
「コンラッドが、兄貴だったら良かったのに…」
「それは、嫌ですね。」
笑顔で同意してくれると思っていた有利は、予想外のコンラッドの解答に目を見開いて、ちょっと傷ついたような顔つきをした。
コンラッドはクスッと小さく笑うと、有利の唇に軽く触れるだけのキスを落とす。
「兄弟じゃこんな事出来ないですからね」
男女問わず、誰でもうっとりするようなウインクを綺麗にきめて、コンラッドはまだ固まっている有利の頬に、また軽く触れるだけのキスをした。
徐々に、覚せいした有利は顔を真っ赤にする。
そして目を見開いて、口をぱくぱくさせた。
「コンラッドのばか…」
ぼそりと呟いた後、有利は食堂の方へ駆け出した。
それを可愛いと思ってしまう自分は、彼なしでは生きられない。