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□過去との戦い
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まったく何なんだ。


本当に、過去にこだわりすぎる男ほど厄介なものはない。



村田は、眼鏡を指で押し上げ、気怠げにリビングのソファーに深く腰をおろす。


自分の部屋に戻って、ゆっくり休みたい気分だが、何故か体が重くて短距離でも動きたくなかった。


こんな姿を渋谷が見たら、きっとぐちぐち言ってくるだろうな。
村田はそんな事をふと思い出して、小さく笑った。


考えてみれば、渋谷と出会ってから思い出し笑いが多くなった気がする。これは良い事なのか、はたまた悪い事なのか。


多分良い事なんだろう。
村田は良い方向に考える事に決め、思考を別なところに巡らした。



彼の今の悩みの種…問題は、あの過去にこだわりすぎる頭でっかちの年寄りの事だ。


あの男が持つ…村田の中の一番古い記憶の持ち主に対する執着心。
それは、村田が思ってある以上に凄いかもしれない。なにせ、この呪いもあの男の執着のたまものなのだから。
嫌なことを思い出した村田は、それを振り払うように頭をわしゃわしゃとかいた。



「少しやばいかも…」



昔の記憶に飲み込まれないように、眉間を指で押さえながら弱音をつい口にだしてしまう。


渋谷を巻き込んではいけない。絶対にだめだ。
渋谷は、渋谷で問題を沢山抱えているんだ。
これ以上問題を増やしたら、パンクしてしまうに違いない。
だが、あっちはそんなことを考慮しているはずもない。だからその前に、僕がなんとかしなければいけない。


もし渋谷を巻き込もうものなら、いくら僕でもみんなに殺されるかもなぁ。
人事の様に考えながら、村田は遠くを見つめる。

ウェラー卿なんか、怖そうだなぁ…


くすりと笑ったあと、また思考を戻す。


そうこれは僕の問題。


―過去との戦い。


そうなんだ。彼ほど・・・・・眞王ほど厄介な敵はいない。


村田は、また小さく笑うのだった。

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