本棚

□婚約者も大変です
1ページ/1ページ

有利は一人、思い詰めていた。
そりゃあもう、いつも使わない脳味噌をフル回転させて知恵熱をだしてしまいそうな程に…思い悩んでいた。



「だ〜。もう駄目だぁ」



有利はとうとう我慢が出来ず、机に突っ伏す。


少し離れていたところで珍しく静かに読書をしていたヴォルフラムが、そんな彼の様子に呆れながらも顔を上げた。



「お前は、いつまで悩んでいるつもりなんだ?」



半端呆れたようなその声に、有利は少しだけ顔を上げる。
彼の眉間に深い皺が刻まれているのを見て、ヴォルフラムは小さく息を吐いた。



「一国の王が、たかがそれだけのことで落ち込んでいてどうする?これだからお前はいつまでたってもへなちょこなんだ」



「へなちょこ言うな!!」



いつものお決まりなやり取りだが、有利の声にはいつものような覇気がない。



「どれだけ情けないんだお前は…。まったく、こんな姿を民が知ったら嘆くぞ」



「別に…」



有利は、拗ねたようにそっぽを向いた。


こうなった有利は、本当に面倒くさい。その事を知っているヴォルフラムは、あまり動じず、落ち着いて口を開く。



「今の様子を、グレタが見たら、どう思うだろうな」



ビクッとして、有利が体を起こす。
今の有利には…多くの民より、一人の愛娘の方が効果があるようだ。


顔を上げた彼の目には、心なしか涙が滲んでいた。よほど、効果があったようだ。
そして有利は、涙目になりながら何やら叫びながらガクンと肩を落とした。



「そうなんだよ。問題は、グレタなんだよ〜。何でなんだぁぁぁ」



そう言って、また机に突っ伏す有利を横目で見ていたヴォルフラムは、今彼が落ち込んでいる理由をぼんやりと思い出した。


ことの発端は、愛娘の一言。



『グレタね。罠女になる〜』



たかがその一言で…有利のMPは全て奪われてしまった。



「うぅ。グレタ…お父様は、そんな子に育てた覚えはありません」



「子供の将来に口を挟むなんて、親としてはどうかと思うぞ?」



「分かってる…分かってるんだけど…」



親バカ…
とゆう言葉が、一瞬ヴォルフラムの脳裏をよぎったが、寸での所で飲み込む。彼も大人になったのだ。



はぁ。まったく、手のかかる婚約者を持つと大変だ。



ヴォルフラムは小さく笑うと、また有利を宥める作業に取り掛かるのだった。





これも、愛故か…

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ