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□プロローグ
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ここにタイトル
・職員室→「はい?」
「はい?……」
声が裏返った。無理もない、いきなりのことで、頭が少しパニックしているから。
「……成る程。庶民とはいえ、特待生にはそれなりに状況判断できる能力が備わっていたか……」
『庶民とはいえ』のところに少しムッとし、それから大げさに声を張り上げると、
「舞台発表会なんか出ませんから。…失礼しました」
と乱暴に扉を閉めた。
「一ノ瀬君!」
廊下を少し大またで歩いたところで、誰かに呼び止められた。
「……須王先輩…」
須王先輩は、僕の肩に手を乗せると、僕の瞳をまっすぐ見た。
「部員も…鏡夜も、分かりにくいけど、みんな君に出させたいんだよ。君以外に適役がいないんだ」
僕は視線を、須王先輩の青い瞳から、大理石の床へと落とした。
「……すみません」
一瞬…一瞬だけ『はい』といいそうになって、あわててその言葉を飲み込んだ。
「そうか…」
「…ごめん、なさい……」
「いや、君のせいじゃないよ。俺達もちょっと強引だった」
須王先輩は、明らかに作り笑いをすると、部室に戻っていった。
…僕はしばらく、その場に立っていた。
校門をくぐったところで、後ろを振り返った。
…誰もいない。
あんな言い方をしたから、もう僕を舞台発表会に出すのは諦めたのかもしれない。
(少し…かわいそうだったかな)
そう思ったけど、僕が再び、北校舎にある第三音楽室に行くことはなかった――。
<終>
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2008/09/13
まさかのエンド。
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