図書

□写真
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*写真


「織姫〜先、部活行くね!」
「え、あ、もうそんな時間?」
しまった、悩み過ぎてた。
「うん。あたしとしては、もうちょい悩んでる織姫見てたい気もするんだけどさ、コーチがあんまり遅くなっちゃね。」
「ごめんね、たつきちゃん。」
「いやいや、あんまり遅くならないうちに決めて、帰りなよ?」
「うん。」
「じゃね。」
「うん。いってらっしゃい。」


3年の夏。
たつきちゃんは引退しても、その腕をコーチとして買われて、時々部活へと顔を出していた。
私は・・・クラスに学校祭のときの写真が張り出されていて、それと格闘すること今日で一週間目。申し込み期限は今日。
買うか、買わないか。欲しい、けど申し込むの恥ずかしい・・・。
だって、写真の集計は学級役員の仕事。
私が今、買うか買わないか悩んでいる写真に、学級委員である黒崎君のみが写る写真。
一瞬の彼を捉えた、このうえないぐらい綺麗な写真。
25番。
なかなかチェックを点けられない。


「今日までだよ?」
驚いて振り向くと、書紀・会計の小島くんが集計ボックスを持って立っていた。
「ごごごごめんね!!」
「ああ、うん。いいよ。5時までなら間に合うよ。待ち合わせがあるから、それまでで。いいかな?」
「う、うん。もう書いちゃうね。」
もう書き終わってる。あとは、ボックスへこの紙をを入れる勇気。
でもどうしても、勇気が出ない。
「小島君、今日はひとり?」
悩み続ける空気に耐えられなくて、振り返ってみた。
「ああ、うん。ケイゴは彼女と帰っちゃったしチャドも約束あるって。一護は」
胸がどきんと高鳴って、前を見て、写真の中の黒崎君と目が合ってしまう。
「越智さんとこだったかな・・帰ったかな・・・。」
「そっか。」
まだ動悸がおさまらない。
「井上さんってさ」
「あ、うん?」
「一途だよね。」
「へ?」
「うん・・・もう好きにになって3年めでしょ?」
顔も赤くなっていくのがわかった。小島くんは、わかってるんだ。
「あの・・・あれ?あたし、小島君に相談したっけ?」
「いやあ。されてないけど、みてたらわかるよ。」
「で、でてた?」
「うー・・ん。出てるほうかな。はは。」
でてた?
そうなのかな、皆わかっちゃったのかな?
「そそそれじゃ、もしかして黒崎くんも」
「残念だけど、それはないんじゃないかな。あの人、自分の事も鈍感だし。」
「はあ〜〜。良かった。」
「・・・本当?」
「え?」
小島くんに心を読まれてるんじゃないかと思った。黒崎君が気付いてないと知って、少し残念な自分もいたから。
「ふふ。ごめんね。なんか意地悪しちゃって。」
「意地悪?」
「黙って見てるほうもね、じれったくなるんだ。ほら、僕おせっかいなところあるから。」
小島君が途中から何の話をしてるのかわからなくなっていた。心はずっと写真をきにかけたままだから。目の前に、黒崎君がいるみたいな空気に、胸が高まったままだから。


「・・・そういえばね、一護も悩んでたよ、写真。これ張り出した日。僕ら、最初に書いちゃったからさ。見てたらね、珍しく。」
「?」
ゆっくりと小島君が近づいてきた、写真を指さしていた。
「えっとね・・・確か、これとこれ、かな。」


気の、せいかな。
いやいや、気のせいだよ。
小島君が指差したのは、1枚は私とたつきちゃんの満面な笑顔。もう1つは、学校祭最終日の運動会。私が借り物競争で『胡散臭い人』と出て、迷って迷って越智先生に出てもらって、ゴールした後越智先生にゴチンとやられてる写真。可愛く写ってない。



「・・・。」
「ね、だから買いなよ、25番。」
「にににに!」
「そ、25番。」
「25番がどしたって?」


口から心臓がでるんじゃないかと思った。黒崎君が、いつの間にかそばにきていた。
「あ、一護。」
「お前、まだいたのかよ。」
「僕はお仕事で残ってるの。これ回収しなくちゃね。と、いうわけで」
ひょい、と手の中にあった紙がいつの間にか小島くんの手の中へ。そしてあっという間にボックスの中へ。
「僕はこれで終わり。」
「あ!!それ!!」
「どうしたんだ?井上。」
「ああ、それ、あれ、その。」
「いやいや、ちょっとね。」
「そういや、25番がなんとかって、なんだ?」
「そそそれはね、それ」
「ああ、井上さんがね、一護と同じことしてたから。僕が背中押してあげてたんだ。」
「・・・」
「・・・」

沈黙。
痛い。
けど、嫌じゃない。
黒崎君の視線の先は、たぶん25番。
何か変われるかな。勇気、出したら、何か変われるかな。ねえ。
黒崎君も、顔が赤いよ。
気のせいじゃなくて、そうじゃなくて、何か変えたい。今、変えたい。
きっかけは、今なんだ。


「じゃ、僕お先〜。」
「・・・おう。」
「・・・あ、じゃ、じゃあね!」
「うん。2人とも、頑張ってね。」
「なっ!!」
「はい!!」

小島くん、ありがとう。
井上織姫、一世一代の勇気、頂きました。
落ち着いて。深呼吸して。大丈夫。




「あの、もし約束とかなかったら、一緒に帰りませんか?」
「・・・なんで敬語なんだよ。」
「へへ、何となく?」
顔が熱い。黒崎君も、一緒ならいいな。


「あー・・その」
頭をガシガシかくそのしぐさ。
きっと、今同じ気持ちなんだね。
「喜んで?」
「・・・疑問系ですか?」
「・・・送らせて下さい。つーか、送りたい。」
まっすぐな目。
私は、きちんといつもの笑顔になってるかな。
「はい。喜んで。」


変われる。明日からは、もっと変われる確信が出来た。







「・・・水色、他に何か言ってたか?」
「・・・私が一途?とか?」
「・・・なんだ、それ。」
「3年目がなんとか・・・あと、僕おせっかい、かな。」
「・・・話が見えねえな・・・。」







*END*

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