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□茜色の、道
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いいなぁ…って、そんな声が聞こえた気がした。
いや、言ってたのか?

でも、俺も同じ事考えてたんだ。ずっと。
あの日、茜色の影を見てから。




*茜色の、道





「んじゃね〜。」
「バイバーイ。」
「帰り、付き合って〜。」
思い思いの別れの言葉が飛び交う。そんな中、俺の耳はただ一人の声に傾けられている。
約束、覚えてんのか、って。

「ヒメ〜〜ん」
そら来た。
「ど、どうしたの千鶴ちゃん?」
「今日一緒に帰ろうよ〜。高3の最後の秋、寂しい冬の手前、道端のベンチでヒメとガフッ!」
ナイスたつき。
「はいはい。そのベンチであたしがしっかりあんたに貞操というもの教えてやるから。」
「たつきちやん……。」
「ほらほら、約束あんでしょ?行った行った!こいつはあたしに任せて。」
「う、うん…。」
困っている井上を、鞄に教科書をしまいながら横目で見る。
待ち合わせは、裏門。
目が合いそうになって、慌てるように水色へ声を掛けた。
「お、お先。」
「あ、うん。」
メールに夢中の水色を見る振りして、その向こうの井上の集団を見る。
情けねぇ。
ここで、たぶんぐいっと井上の手を引いたりしたら……って、出来るはずない考えが浮かんで、恥ずかしくなってしまった。
「ねぇ。」
だから、水色の視線に全く気付かなかった。
「何一人で考えてたの?」「あぁ?」
「一護、顔真っ赤。」
「な、なんでもねぇよ!!」
「…ふうん。……そういやさ、井上さんと順調?」
「なぁ!!?」
「わぁ大きい声。」
「な、なに言い出すんだよ、急に!!」
「いや、ちょくちょく隠れるようにして二人で帰ってるでしょ?」
いつから見てたんだ、こいつ!
恥ずかしくなって、水色を廊下へ連れ出した。
「おま、いつから見てた?」
「うーん…夏休みの夏期講習?古文、終わった後?」ビンゴだった。
俺は物理、井上は古文を選択していて、終わるのが一緒ってのもあって時々一緒に帰っていた。
「噂、流そうかな、と思ったんだけど。でもなんだか付き合ってるような付き合ってないような?でしょ?一護は気にしないとして、井上さんはね…。」
「何だよ。」
「色々、気にしちゃうでしょ?それに僕、女の子に優しいし。」
「…答えになってねぇぞ。」
「井上さん、モテるから。」
「………知ってるよ。」
知ってる。
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