図書

□足跡
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辿っていく。


着いて行きたい。
ずっと、こうやって広い背中を見て、いつか。







*足跡






急な、お誘い。
黒崎くんから……なんてのは私の頭の中でだけで、実際は浅野くんから。
どうやら最近出来た彼女と行く予定だった海が、彼女の都合が悪くなったようでだめになって。
で、浅野くんからの熱烈アプローチで、夏期講習に来てた私とたつきちゃん、黒崎くんと小島くん、計5人で高3最後の勇気あるバカンスを一日だけ、砂浜へと過ごしに来ていた……ハズ、だった。









「あれ?」
「お。」
待ち合わせ時間の10分前。海行きのバス停。
「黒崎くんだけ?」
「おう。」
最近、講習が終わるとなんとなく二人で帰るのが多くなっていた。
約束なんかしてない。もちろん、付き合ってなんかない。
たまたま、その日行く本屋さんが一緒で、裏門からが近道なのを二人とも知っていて。それがきっかけで。初めは緊張してガチガチだった心も、身体も言葉も、段々二人でいる空気に慣れてきていた。



でも。
たわいない話しはたくさん出来ても、肝心な事は言えない、聞けない。
今の位置の居心地の良さに慣れて、甘えて、時々苦しくなる。


「たつきは?」
「うん…それがね、今日小学生の空手大会があって、急遽審判の代打が入っちゃったって、メール来たんだ。」
「そっか…。大変だな、あいつも。」


いつもは制服の黒崎くん。今日はラフな格好で、でもビシッとしてて。
いつもの、二人の空気と少し違うように感じる。
胸がドキドキする。
「こ、小島くんと浅野くんは?」
「…あぁ、水色は…まあいつもの…」
「…女性関係ですか!」
「そう、らしい。ケイゴはまだ連絡ないんだよ。」
「そっか…。もう少し待ってみる?」
「だな。ここ、座れよ。」

そう言って、自分は立ち上がってベンチを開けてくれた。
「あ、ありがとう!」
「どーいたしまして。」
ポンッと私の頭に手を乗せて、後ろへ下がる。
と、そこで聞き慣れない着信音がして振り返ると、黒崎くんの電話だった。
「おう。お前もうすぐバス来るぞ。」
「……ああ?」
うわ、なんかあったのかな。
「……コンビニ?」
あ、黒崎くん眉間のしわが…。
「げ。」
そう言って、見てみろって顎を上げて私の後ろを指差す。吊られるように前を見ると、道路を挟んだ向こうのコンビニ前に浅野くんと……
「あ!!」
彼女がいた。
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