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□「好き、です。」
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わかってる。
どんなに態度で示したって、やっぱり言葉も必要なんだ。
伝わり切らない。


わかってる。





*「好き、です。」




「…風、冷たくなってきたね。」
「ん、あぁ。な。」
秋、手前。
影が長く伸びて、オレンジ色も濃くなってきた。
道端に枯れた葉が多くなって、空が遠い。





皆の前で、手を引いて帰ってから付き合ってる事にはなってるみたいだけど、当の俺達は、肝心な言葉を言えないまま。
井上の気持ちはわかってる、つもり。井上も、俺の気持ちをわかってる、と思う。

同じ思い。

言わなくてもわかる、なんて月日を重ねた人達が言う事で、つまるところ、俺達は始まってもいない。
だから、先にも進めない。このままじゃいけない。
やっぱり、大事な言葉を伝えて、確認して、きちんと始めたい。
井上は、そう、大事に思える存在だから。




『あのな、明日、一緒に帰れるか?』
『うん。何もないから大丈夫だよ。へへ、久しぶりだね。』
『ん。……あのな。』
『うん?』
『明日、話すから。』
『へ?何を?』
『いや、その…なんだ、顔見て言いたい事あるからよ、明日、と、とにかく!』
『今じゃ…?』
『いいい今は無理だ!ダメだ!じゅ、準備が!』
『う、うん…わかった。何だか大変そうだけど、わかった。』
『…お、おう。』


昨日夜決めて、腹をくくった事。
井上に、ちゃんと言う。












尋常じゃねぇぞ、この汗。擦れ違うカップルを見る度に、皆こんな思いして付き合うのか、っと思う。あんまり見て、睨んでると思われたようで。
「どうしたの?黒崎くん。」
「はっ、ん?」
「うん…眉間が5割増し…。」
「なんでもねぇよ。大丈夫。」
井上がこっちを見てるのすら気が付かなかった。
格好悪ぃ。情けない声が出ちまった。

「ね、少し遊ばない?」
赤い顔して、先にひらりと公園へ。
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