図書
□おめでとう。
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只、伝えたいと思ったんだ。たぶん。
今日しか言えない言葉だから。
*おめでとう。
いつもより少し早く着いた朝の教室が、なんだか騒がしく感じた。
その騒がしい声達の中心には、井上。その井上と目が合った。
「おはよう!黒崎くん、小島くん!!」
「おはよう。」
「おう井上、今日もまた一段と幸せそうだな。」
「えへへ〜。」
「そりゃそうよあんた。」「は?」
たつきが井上の背中を押しながらこっちへと近づいてくる。
「今日は織姫の誕生日。」「へぇ。」
黒板を見ると、9月3日。まだ夏のような暑さ。
空も青くて、まだ少しだけ近い。
「井上織姫、16歳、結婚出来る年になりました!」
「結婚!!!?」
どうやら話しを聞いていたケイゴが突然興奮しながら相変わらずのテンションで近づいてきた。
「ししししますか!僕と!!」
「えぇ?」
「何であんたよ!!」
すかさずたつきがツッコむ。一連のやりとりを、教科書をしまいながら見ていた。
誕生日。
今日か。
井上をちらりと見ると慌てながらたつきとケイゴの間に入って、笑いながら困っていた。
『おめでとう、な。』
言葉が頭を掠めて、なぜだか。
伝えたい、と思った。
井上の顔を見て、友達と話し過ごす、その姿と笑顔を見て。
その言葉が頭を巡りながら、いつもと同じように過ごす一日。
時々井上と目が合って、井上はその度笑ってくれるけれど。 でもたぶんいつもとは違う、少しはにかんだような笑顔。
何か違う。
少しイラつくのは短気なせいか?
「一護、5割り増し。」
「んぁ?」
「皺。」
「悪かったな。」
「…何でそんな顔してんの、今日。」
「…知らね。」
今日、にひっかかる。
黒板を見ると9月3日。
チラリと、視界に栗色の長い髪が目に入って、すぐ消えた。