図書

□落ちる
1ページ/1ページ


落ちる。

本当にこんな気持ちあるんだ、って初めて知った。



*落ちる



高校に入って、新しい事づくしで、戸惑う毎日で。
だから親友のたつきちゃんが、部活の大会で休みになった今日は何だか心細かった。

そんな日に日直。


「こりゃ無いッスよ先生…」
地学の時間。
授業で使う物を運べと言われて行くと大きな地図に地球儀。おまけにプリントの束。
一遍に運ぼうとした私も間抜けかもしれないけど、かなり重い。
前が見づらい。

だから前に後ろにいる人に気を配ってひょこひょこ歩いていた。
けど、誰かに地図をぶつけてしまった。

「って…。」
「ごめんなさい!!」

オレンジ色がちらりと揺れる。
たつきちゃんの幼なじみの、えーっと怖い顔の、黒崎くん。

「ああ、大丈夫。」
「ごめんね。」
「いや大丈夫だって。」
「あ、うん。」

教室まであと少し。
荷物を持ち直していると、目の前にするりと綺麗な手。見取れてしまう。

「うわ、綺麗…。」
「あ?」
「ああ、いや、何でもないです!!」
思わず出た言葉に恥ずかしくなる。

「ほら。」
「へ?」
「貸せよ。」
「え?」
「そこだろ、次使うやつ。井上だよな確か。たつきの友達の。」
「あ、はい!井上です!」
一瞬沈黙。
黒崎君は、笑っていた。
いつも深い眉間の皺がたぶん、少し浅くなって。 男の子の友達と話してる時みたいに。

「おもしれーな、井上って。」
「え?」
「いやいや、だからそれ…まぁ、いいか。」
と、急にまた手が伸びてきて、地図がひょいと黒崎くんのところへ。

「あれ?」
と思ったら地球儀も、私の手から黒崎くんのところへ。

「次使うんだろ。」

それだけ言って、スッと教室に入って行った。



あ、落ちた。
きっと、この気持ちは。



「あの、ありがとう!」
「…おう。」



1回のありがとうじゃ足りない気がして。


「助かったよ、ほんとに!ありがとう。」
「どういたしまして。」


それだけ言って、横を通り過ぎて行く。
顔が身体が熱い。
でも手だけは冷たくて。
それからオレンジ色を見る度に胸がドキドキして。
ジエットコースターみたいにもう戻れない。




確信した。







*END*
1000打、どうもありがとうございます。
始まりは定かではないので捏造ですが…。
わたしが手フェチなもので…f^_^;

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ