図書

□扉
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日曜日だし。


咄嗟に浮かんだ言葉。
そんな理由しか付けられなかった。本音は、まだうまく言えない。でも伝えたい事はたくさんあって。


目の前のドアに手を掛けた。
今日こそ、と静かな野望とわずかな勇気を連れて。




 扉



「いらっしゃ〜い!」
にこやかに開けられたドアが約2時間30分前。
手土産のアイスとプリンをすぐに平らげて、借りて来たDVDを見終わって、今は何をするでもなくただおしゃべりをしながらテレビを眺める。ほとんどは井上からの話で、俺はただ相槌を打つ。
いまだ気恥ずかしい空気と井上との微妙な距離。


本当は会いたいくて顔が見たくて、遊びにきた。少し失礼な感じにも取れる理由、日曜日って何だよ。
きっと、格好つけないで本音を言えたら井上も喜んでくれるだろうし、自分も楽になれるんだろうけど。
井上は、すぐに会いたかったんだと話してくれたけど、おう、としか言えず。
……不甲斐ない。


付き合って3ヵ月とちょい。俺達はまだ、手を触れ合っただけで。
本音は、前に進みたい。




「あ。」
井上の声に釣られて同じように時計を見ると、7時10分前。

「もうこんな時間なんだね。早いなぁ。」
「な。」
「黒崎くんといると、3倍速に感じるよ。」
「ビデオかっての。」
「ね。」
「…また、次来週かな。ゆっくり来れるの。」
「そっか…。」

視界に、スカートを握り締める手が見えた。そして優しく、でも少し寂しそうに笑う。
胸がきゅうっと音を立てたような気がした。

「見送るね。」

そう言って、井上が俯いて静かにドアに手をかける。その横顔。




人間関係にも、一つ一つ扉があるとしたら、開けるカギはきっと全て自分次第で。今その扉を開きたい、開く時だと心が体を突き動かすのを感じた。







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