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□雪酔い
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「あ…!」
「あ?」

繋いでた手に力が入って、声に釣られて同じように空を見上げた。


ふわふわと、今隣を歩く井上みたいに揺れながら、今日の寒さを教える綿雪が一つずつゆっくりと落ちて来ていた。




*雪酔い




慣れ、ってのは凄いもので、約9ヵ月こっちで暮らして身体はすっかり北国仕様になっていた。
引っ越してすぐまだ雪があったし、短い夏と鮮やかな秋にあっという間に来る冬。
今年はまだいいほうみたいなんだ、なんて初めてこの季節に来て寒がる井上に、友人の受け売りを話した。


「なんかもう道産子だね。」
「…どこで知ったんだ、その言葉。」
「さぁ、どこでしょう?」「…バイト先?」
「アレ、あたし話したっけ?」
「…さぁ?」
「あれ?」


受話器越しじゃないクリアな少し弾んだ声。
クルクル変わる表情に、久しぶりも手伝ってか目が離せない。


「こっちはもう冬だね。」「だろ。だから着てこいって言ったんだ。」
「うん。言う事聞いて正解だった。」


手は、空港から快速に乗っても繋いだまま。
俺も離す気はないけれど。今までより強く繋いでる気がするのは、気のせいじゃない。
それだけお互いに会いたかった証拠なんだ、と身体が素直に表現しているんだと夏を越えて知った。


「でも手袋は、やっぱりはきたくなかったんだ。」
「…確信犯だな。」
「えへ。」










快速を降りて、俺のアパートへと向かう。
思っていた以上に冷えて来た空気に井上が震えて、少し笑って首のマフラーを少しきつく締めてあげた。


「ありがとう。」
「どーいたしまして。大丈夫か寒くないか?」
「んー少しコタエるね。」「快速暑かったからなおかもな。……来いよ。」
「わーい!」


待ってましたの顔で井上が脇腹にくっついて来る。

「「待ってました、だろ?」」



同時に言葉が出て、顔を見合わせて笑う。ここが道だという事を忘れて、二人おでこをくっつけ合っていた。
先を追い越していく人に気付いて、その先に進みそうになっていた気持ちを押し込んで、苦笑仕合う。


「後で、な。」
「ん〜〜。」
「今するか?」
「うん!!」
「…井上からならな。」
「……意地悪。」








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