図書
□夕暮れ・一人散歩
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「っう〜っし、おわり!」有り得ない量の宿題(重なる時は重なるんだ)をやっと終わらせて、体を伸ばすとあちこちで音が鳴った。せっかくの日曜日、やる事はこの宿題のみ。
井上は、部活もあってのこの宿題…ゆっくり会えるのは来週に持ち越し。
時計を見るとまだ夕飯前。気晴らしに、散歩へと出る事にした。
*夕暮れ、一人散歩
ジャケットに入ってたプレイヤーのイヤフォンを耳にはめて、スタートを押した。聞き慣れた、心地いい歌。もう歌詞は完璧に頭のなか。
何の気無しに歩き始めた、つもりだった。
「おいおい…。」
気付けば歩き慣れた道。このまま行けば、あいつの家。
付き合い始めは、たぶん、井上からの気持ちの方が大きかった。今じゃたぶん…この状態からして。
いつも待ち合わせする公園が見えてきて、一休みしようと思いなんとなくイヤフォンを外した。
夕暮れ時。オレンジ色に染まる。
『あったかいね。』いつだったか、そう呟いてた。この色が好き、とも。顔をオレンジにしてこっちを見て。ああちくしょう。
「メール……って、何て入れんだよ。」
かっこわりぃ。
ポケットに手を入れて、携帯を触りつつ公園へと足を進めた。
「〜〜〜〜」
風のような、でも違う心地いい音が響いた。
「〜〜〜〜あれ?〜〜〜〜〜〜ん〜違うなぁ…」
井上だった。
ブランコに乗りながら、真剣に口笛を奏でていた。
「〜〜あれ、音が違う。」たぶん、テンポが早くなるところで躓いてるんだろう。しばらく見ていたい、と思っていてもついつい笑ってしまった。
「ああああああ〜!!」
「っくっくっ!」
「い、いっいつからそこにいたの?」
「あ〜…サビ入るちょい前かな。」
ぶっと、井上の頬が膨らむ。と同時に思いつき、苦戦していた歌詞通りに手を広げてみた。
「…意地悪。」
「…なんでだよ。」
「だって黒崎くん、外でなんてぎゅってしてくれないもん。」
「わかんねぇよ?」
さっきはあんなに恥ずかしがって驚いて膨れてたのに。でもって、今は期待してる。たぶん、俺の持ってない、こういうところが。
「…本当?」
「井上次第。」
そして。
甘い匂いに包まれたかと思うと、一瞬宙に浮くような感覚がした。