図書

□おめでとう。
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夕方。
越智さんに捕まって、今5時前。

「うわぁ、もう真っ赤じゃねーか。」

教室にカバンを取りに行くと、影が動いた。
井上だった。
少し、胸がザラつく。
何かを探してるみたいで、わたわたと後ろのロッカーで動いていた。

「おう、どうしたんだ?」「あ、うん、部活のね、材料忘れたみたいで…。」
「手伝うか?」
「ううん、いいよ、大丈夫!ここにあるはずだから。って、あ!あった!」

手には赤いファスナー。

「ね!」

嬉しそうに笑って、その顔を見て、言葉がまた頭を掠めた。

「黒崎くんは帰りかな、気をつけてね、じゃあね!」「あ!!」

周りは夕焼けで赤くて、井上の顔は逆光になって見えなくなっていた。
でも。

「何?」
「いや、その。」
「うん?」
「おめでとう、な。」
「うん!!ありがとう!」「じゃあな。」
「うん、またね!!」
「おう。」




夕焼けで見えなかったけど、たぶん井上は笑顔で。
声は弾んでたから。


教室を出て、水色の言葉思い出して気になって、ふと自分の眉間を窓を鏡にして見る。
いつもはどんなか分からないけど、たぶん、いつもと変わらない皺。


そこに
「黒崎くーーん!」
呼ぶ声がして振り返る。

「ありがとう!」

もう1度、井上からの言葉と笑顔。
今度は逆光じゃなくて、しっかりと。

「おう。」


それ以上何を言ったらいいかわからなくて、どんな顔したらいいかもわからなくて、振り戻って、只、手を上げた。



「また明日ねーー!」


追い掛けてくる声が温かく感じて、少し汗をかいた手をもう1度、上げた。







*END*

間に合わなくてスイマセン。
誕生日おめでとうね、織姫サン。
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