◆唄◆

□さよなら
1ページ/1ページ


「さよなら」

そう言った君の声は、涙に濡れていた。


別れなくてはならない原因など、とうに忘れた。
ただ今胸にあるのは、別れるのだという事実を突きつけられた、悲しみだけだった。

「泣かないで」
そういう君の瞳にも、涙が溢れ続けていた。

離れたくない 一緒にいたい

『何故、別れなくてはならないの?』


ずっと一緒にいたいのに
これからもずっとずっと、共に生きたいのに。

駄目だ。考えてはいけない。

別れる理由など、この行き場のない胸の痛みと 溢れて止まぬ涙だけで充分なのだ。

これ以上理由をつけたところで、悲しみが増える他ならないのはわかっているのだから。


「さよなら」

やっとで 返す。
同じように、その声は涙で濡れるのだけれど。

それでも、悲しみは吹っ切れるはずがなくて。


最後に、そっとキスをした。


触れるだけの優しいキスをした。




『さよなら』

もう一度。
濡れた声を重ねた。


大丈夫。大丈夫。大丈夫。


きっと、いつか
綺麗な綺麗な、想い出になるから。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ