◆唄◆
□さよなら
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「さよなら」
そう言った君の声は、涙に濡れていた。
別れなくてはならない原因など、とうに忘れた。
ただ今胸にあるのは、別れるのだという事実を突きつけられた、悲しみだけだった。
「泣かないで」
そういう君の瞳にも、涙が溢れ続けていた。
離れたくない 一緒にいたい
『何故、別れなくてはならないの?』
ずっと一緒にいたいのに
これからもずっとずっと、共に生きたいのに。
駄目だ。考えてはいけない。
別れる理由など、この行き場のない胸の痛みと 溢れて止まぬ涙だけで充分なのだ。
これ以上理由をつけたところで、悲しみが増える他ならないのはわかっているのだから。
「さよなら」
やっとで 返す。
同じように、その声は涙で濡れるのだけれど。
それでも、悲しみは吹っ切れるはずがなくて。
最後に、そっとキスをした。
触れるだけの優しいキスをした。
『さよなら』
もう一度。
濡れた声を重ねた。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
きっと、いつか
綺麗な綺麗な、想い出になるから。