一話完結。

□ジ・アザー・ディ
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「…おい。」
「何よ。」
「お前さ、いい加減それやめろよ。」
「暑いんだもん。音ぐらい我慢してよ。」
「うるせぇ。」
「心の狭い男だなぁ。」
「お前が図太いんだ。」
「うわー、むかつくー。」

教室。
彼女の後ろの、座席。
自習。
先生のいない、授業。

「大体あんた、勉強しなさいよ。」
「お前がうるさくて集中出来ん。」
「じゃ、そのベコベコしなさそうな下敷き貸して。」
「貸すかバカ。」
「どんなケチだよ。」
「貸したが最後、目もあてられん代物になりそうだ。」
「さっきからあんた、喧嘩売ってる?」

今の言葉は、
本音に近い。
もちろん言葉通りの、意味ではなくて。
俺的問題だ。
そう、心の問題。

「ったく、本気それやめてくれよ…。」
「んじゃ、あんたの後ろの人がやめたら、私もやめたげる。」
「あ?あいつはいいんだよ。」
「友達贔屓かよ。」
「暑いんだから、しゃあねぇだろ。」
「本気贔屓かよ。ホモか、あんたは。」
「んじゃお前はレズだ。」
「決め付けんなアホ。」
「うるせぇバカ。勉強してろ。」
「…話しかけたのはどちら様ですか?」

そう言って彼女は怒った様に、
前に向き直り、シャーペンを持つ。
右手にソレ。
左手には、下敷き。
さっきと同様、パタパタと、
忙しなく扇ぎ、休む間もない。
流れてくる風を避ける様に
俺は机に体を伏せる。
嫌なんだよなぁ。
俺は頭を掻く。

「ったく…くせぇんだよ…。」

風にのって、彼女の香り。
甘い香り。
胸が、飛び跳ねる。
こんなピュアさはいらねぇんだ。
俺らしくない。
だから嫌になる。
だから、嫌い。

「調子、狂う…。」
「まだ何か用?」
「何でもねぇよ。」
「何でもないのに高校生が独り言言わないでよ。じじ臭いなぁ。」
「うるせぇばばぁ。下敷きやめろ。」
「あんたしつこい。」
「お前もしつこい。」

だから風を送るなって。
俺はそれで、
毎日毎日死ぬ思いしてんだかんな!?

「あーあ。席替えしてぇな。」
「はいはい、そうですか。」
「今度は窓側の席になりてぇ。」

そしたら後でも、良いのにさ。
そんな事を思う、
高2の夏。青春真っ盛り。

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