text

□最後のプレゼントの名は
1ページ/2ページ

ロックオンは俺の心が読めるんじゃないか、と刹那はたびたび思っていた。

他人の手のひらや体温の求め方さえ知らず、そんなものを求めたがる自分を否定していた刹那の気持ちを見透かすように、おせっかいというラベルを丁寧に貼り付けて、ロックオンは温もりを与えた。
どうしてわかる、と主語も何もない問を投げかけても、彼はたいして困惑することなくやわらかく笑って答えた。

「たぶん、俺がおまえのことを誰よりわかりたいって思ってるからだ」

その曖昧な答えは、刹那の胸を淡く、でもたしかに満たした。
そしていつの間にか、刹那は手を伸ばすことをおぼえた。

今、改めて思うのは、ロックオン・ストラトスは、刹那のことを知りすぎていたということだ。刹那自身の知らなかったことさえ。

けれど、そのことこそが刹那を苦しめることは、彼も想像がつかなかったのだろうか。




どうして、俺は食事なんかとっているんだろう。
なんの味も感じないけれど、咀嚼したものが喉から食道を通っていく。いつも、通り。
腹が減ったとは思わなかったけれど、こうやって食事をしている。生きるために。

どうしてだ?

宇宙へ出て、人間の命の小ささを感じた。
もともと戦場で生まれ育ったような刹那は、人間の命があまりにもたやすく奪われることを本能的なレベルで知っていた。

世界と、人の命はあまりにも、遠い。

たとえば自分の命が失われたからといって、この世界のなにが変わるというだろう。
もちろん、「ガンダムマイスター」という背負うものがある今、少なくともCBという組織においては意味のある命だとしても。
人の命は、おどろくほど軽い。
たくさん寄り集まって、やっとその軽さを他人が認識できる。個人の命など、とるにたらない。
多少のことでは、世界は少しも涙を流さない。

それでも。

この世界は変わらなくとも。

俺の世界くらい、変わってもいいんじゃないのか。
この矮小な世界くらいは、呼吸を止めたって、すべての水分が枯渇するまで泣いたっていいんじゃないのか。
どうして、終わらないんだ?終えようとしないんだ?

彼が、ロックオンが、失われたのに。
どうして、俺の世界は回り続ける?
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ