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□きみがまわすぼくらの世界が、やさしいものであるように
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「・・・ほんと、仲がいいんだな」

食堂でふたりになったとき、ふいにライルが皮肉っぽく笑ってそう言った。
刹那は突然放たれた言葉に、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「世界に喧嘩を売って、さらにはアロウズを叩こうって組織が、こんなに小規模で仲よしとはね。規律ずくめの殺伐としたイメージだったんだが」

揶揄するように言う彼は、まだCBの一員ではないような口振りだ。
強硬手段を取った自覚のある刹那に、それを責めるつもりはもちろんない。


「俺たちがそう見えるなら、それは・・・ニールがいたからだ」

一瞬、ロックオンと言いかけて間が空いた。

「俺たちはみんな独りだと自惚れていたのかもしれない。でも、あいつは違った。誰かを守ること、赦すことを知っていた。孤独が孤独を埋めることも。自分の淋しさに気づかないことが一番淋しい。それをみんなに教えて、惜しみなく人を慈しむことを俺たちに、俺に、教えた」


「・・・兄さんはいつでもどこでも愛される人間だった。でも、俺に兄さんを期待されたってそりゃあ無理な相談だ」

ライルはどこか遠くを見ているようだった。
刹那の知ることのないニール・ディランディがその視線の先にいるのかもしれない。

ライルの存在が、仲間意識が芽生えたCBに波風を立てることなど分かり切っていた。
四年が経った今も、「ロックオン・ストラトス」の存在はあまりにも大きかったから。
とくにティエリア、フェルト・・・そして刹那のなかで。


「ニールのような人間がいるなら、憎しみと過去に捕らわれていても、あんなに優しく微笑む人間がいるなら、この世界に希望を持つことだってできると思った。・・・過去の俺も含めて、人間の愚かしさはきっと終わらない。でも、それでも、優しく美しい人間も負けないくらいたくさんいるはずだ、そう思えた」


忘れられるわけがない。

死と隣り合わせに生きてきた刹那が、初めて泣いたあの日。
喪失がこんなにも胸を抉ると知った日。



「ここは、居心地が悪いか?」

刹那が尋ねれば、ライルは「よくはねぇだろ」と苦笑いを浮かべる。


「兄さんと同じ行動、同じポジションをとってやるつもりはねぇし。重ねられるのは御免だが、同じ顔なのに兄さんと違う俺を受け入れられない連中がいても、しょうがないなと思える程度には年をくってる」


最年長マイスターだから、あんなに気を配れるのかと思ったこともあったが、やはり違うらしい。
それに、今のアレルヤとニールは同い年だ。

きっと、彼は彼だったがゆえに優しかった。


「あんたをマイスターに推したのは俺の独断だ。・・・ここには、俺には、新しいロックオン・ストラトスが必要だった」

ライルは無言で刹那を見つめ、言葉の先を促した。

「こんな世界は間違っているんだ。あいつは望んでいない。・・・あんなに世界を愛そうとした人間を犠牲にして生まれ変わった世界がこれだなんて、俺は認めない。だから、破壊する」

刹那は強い口調で言ってから、一息ついてまた口を開く。
今度は、穏やかな調子で。


「そして、あいつは俺に言った。弟の未来のためにも、戦うと」

その言葉に、ライルが目を見開く。
刹那はふたりの過去をよく知らない。
ただ、ニールの死を告げたときの様子から、ライルのなかに何かわだかまりがあることは汲み取れた。
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