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□一番大切なひとと、同じ顔で笑いたい
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「やぁっと帰ってきたな!一緒に寝ようぜー」
一瞬、他人の部屋に入ってしまったかと刹那は錯覚しそうになった。
ベッドのうえで、笑みを浮かべたロックオン・ストラトスがハロを抱きかかえて寝ころんでいる。
CB再始動のためミッション続きで、ちゃんと言葉を交わすことはなかったが・・・。
勝手に部屋で寝ころんでいるとはどういうことだ。
いつの間にそんなに打ち解けていたのか。刹那にはわからない。
ロックオン・ストラトスはCBのメンバーと深く付き合うことを望んでいるようには見えなかったから、尚更だ。
「ハロが開けてくれたんだぜ」
へらぁっと笑う顔をよく見れば、少し赤い。
スメラギと酒を飲んでいたせいのようだ。
『セツナ、オカエリ、オカエリ』
刹那がベッドの傍へ近寄ると、ハロがぽんぽんと跳ねてきた。
それをキャッチして、刹那は「あぁ、ただいま」とハロを撫でる。
その柔らかな表情を、ロックオン・ストラトスはじいっと見つめていた。
そして、ぽつりと何かを呟く。
「・・・ぃ・・さん」
刹那がそちらに視線をやると、ロックオン・ストラトスはベッドにうつぶせに倒れ込んでいた。
栗色の髪が散らばって、顔を隠している。
ハロにおやすみを告げてスリープモードにし、刹那はベッドサイドに腰掛けた。
顔が見えなくても、目の前の身体を抱きしめたいとは思わない。
ニールとは、間違わない。
でも、笑っていてほしいと思う。
目の前の彼にも。
「どうした?」
手を伸ばしたはいいが、髪を撫でるのは躊躇われて、ぽんと肩を軽く叩くにとどめる。
ゆるゆるとロックオン・ストラトスが顔をあげた。
「・・・刹那が笑えるようになったのは、兄さんのおかげなんだってな。だから、笑い方が似てるってフェルトだっけ?あの子が言ってた」
酔っているとは思えない、さっきまでとは全く違うしっかりとした口調だった。
刹那は「そうかもしれないな」と答えた。
いつだって、彼は笑っていたから。刹那は誰より近く誰より多くその顔を見ていたのだから。
そして、誰よりも刹那の笑顔を望んでくれたのは彼だったから。
「俺の笑い方が、あいつに似ているなら嬉しい」
刹那がそう言うと、ロックオン・ストラトスは上体をゆっくりと起こした。
そしてすぐ傍にあった刹那の身体を徐に抱きしめる。
突然のことに、刹那は身体を強ばらせた。
他人の肌や体温に対する嫌悪感は薄れはしたが、消えたわけではない。
それでも、刹那がその身体を押し返さなかったのは、か細い声が聞こえたからだ。
「・・・にぃ、さん」
湿った息が、刹那の首筋にかかった。
顔は見えないが、どんな表情をしているかはわかるような気がする。
戸惑いつつも、刹那はロックオン・ストラトスの背中を撫でた。
彼がいう「兄さん」が、いつだったか刹那にしてくれたように。
「双子の俺は、兄さんの笑い方と似てねぇってのにさ。・・・ここで、どうやって笑ってたかも知らねぇのに」
自嘲するかのような物言いに、返す言葉を刹那は持たない。
彼の兄は、ここでみんなを慈しむように笑っていた。
そこが、決定的に違う。
ロックオン・ストラトスはぎゅうときつく刹那を抱きしめた。
甘えているというより、何かを刹那のなかに探すように。
「なんで・・・兄さんがいないんだ」
震えた声だった。
それは多分、刹那に向けられた言葉ではなくて。
理不尽な世界への訴えであり、たったひとりの魂を分けた相手への呼びかけでもあった。
だから今度は、しっかり抱きしめ返す。
刹那のなかで確かに息をしている彼が、「兄さん」が、弟を抱きしめたいと言っているような気がして。
「・・・長く離れていても、お互いのこと想っているのは同じだな」
そして、どんなに苦しくても涙を見せようとしないところも。
刹那は、心のなかでそう付け足した。
20081119
前書いたのは刹→ニル色が濃かったので、今回は兄弟色強めで。
ディランディ兄弟への愛をこめて。