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□マイ・スイート・ハニー
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「あまい匂いがする」
ふいに、まだ眠たそうな声が聞こえてきた。
やべぇ、もう起きちまったのか。
ほんとなら、もっと早く起きて作りたかったけど、身体のだるさだとか刹那の寝顔に気を取られて。
結局ベッドを出たのは10時前だった。
「おはよ、刹那」
「・・・ん」
寝ぼけた刹那はいつもより幼くてかわいい。
むにゃむにゃ何か呟いて、俺の腰に腕を回してくる。
好き勝手にはねた毛先が、俺の首筋にあたるのがくすぐったい。
「なんか作ろうかなぁって」
手に持ったボールを刹那に見せたら、「バレンタインか」と小さく呟く。
刹那がそんなイベントを覚えてるのにちょっとびっくりだ。
なんか、意外。
そんな俺の考えが伝わったのか、刹那が「昨日、女子がうるさかったからな」と返してきた。
今年はバレンタインが土曜日だから、刹那は家にいると思って安心してたけど。
そっか、前日に渡すのか。
そんな単純なことに考えが及ばなかった自分に嫌気がさすけど、昨日の刹那はチョコを持って帰ってきた様子なんかなかったはずだ。
「刹那はもらったのか?・・・女の子から」
ボールのなかで溶けたチョコレートを混ぜながら、刹那の顔を見ないようにして尋ねた。
刹那がモテるのは、文化祭に遊びに行ったときの様子でもわかってるつもりだったし。
「そういえば、クリスティナとフェルトがくれた。ふたりで食べて、と言っていた」
「ふたりって、俺も?」
聞き覚えのあるその女の子たちは、クリスマスにケーキ屋で会った子たちのはずだ。
刹那がこくんと頷いてから、俺の首筋を舐めあげた。
ぞくっとした感覚が背中を走る。
「それより、それは俺のじゃないのか」
ボールに視線をやりつつ、刹那の右手が俺のシャツのなかに入ってくる。
かさついた指がわき腹を撫でた。
「っ、これは刹那のだけどさ、まだ作ってると途中だし」
トリュフかなんかを作ろうかと思ってたのに、刹那は「そのままでいい」なんて言う。
味見させろってねだるのがかわいくて、俺は人差し指でボールの縁についたチョコレートをとって刹那の唇によせた。
・・・期待してないって言ったら、嘘になる。
熱い口内に誘い込まれて、刹那の舌が俺の指に絡みつく。
チョコレートがなくなっても、俺の指を離してくれない。
「っ、……ぁ」
思わず、甘ったるい息がこぼれ落ちた。
寝ぼけてたはずの刹那の瞳が、いつの間にか炎がともったようになって。
俺は、たまんなくなる。
「食べてもいいか?」
ようやく解放された俺の指先にちゅっと口づけて、刹那がそんなこと言うから。
俺が返せるセリフなんか、ひとつしかない。
「残さず、食ってくれよ」