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□ランチはおあずけ
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「よし。これで目当てのもんは全部買えたな」
ロックオンは満足そうに手に持った袋を見て微笑んだ。
そのなかには、スメラギ用のアルコールが入っている。彼がセレクトしたウイスキーやワインだ。
一方の刹那は、衣類や日用品を持っている。
一番重いアルコールをどちらが持つか揉めたけれど、アルコール以外の荷物を全部刹那が持つことで落ち着いた。ロックオンは意外に頑固だ。
今日の夜にはトレミーに戻らなければならないので、刹那とロックオンは朝一で買い出しに来ていた。
頼めばたいていは王留美が提供してくれるが、ロックオンには自分で買いに行きたいときがあるようだ。
刹那にはその感覚がいまひとつわからない。
でも、ふたりで一緒にでかける理由ができるから、わざわざ文句を言うつもりはない。
「昼飯どうする?わざわざ出てきたんだから外でうまいもん食べようぜ」
大型デパートの高速エレベーターを降りながらロックオンが言う。
最上階には大きなレストランがあるのだが、女性に人気の有名店らしく、ランチのビュッフェは予約制で諦めたのだ。
チン、と音がして扉が開く。
「・・・なんでもいい」
刹那がそう答えると、ロックオンはどうするかなぁとつぶやいた。
デパートから出ると、大通りは人で溢れかえっていた。
朝はそうでもなかったのに、昼過ぎになって急に人口が倍増したかのようだ。
「そういや、今日は休日だったか」
宇宙にいる時間が長いと、曜日感覚なんてすっかりなくなってしまう。体内時計がおかしくならないよう、時間感覚は意識しているが。
「腹がへった」
「・・・帰って食べるか」
その言葉に刹那も頷く。
「この調子じゃ、どの店もかなり待たされそうだもんな。地上でくらいうまいもん食べたかったんだけど」
ロックオンはため息をついた。
「あんたのつくるものが食べたい」
刹那が思ったことを口にだすと、ロックオンはうつむく。
・・・年上のくせに照れてる俺がバカみてぇ。
そうロックオンが小さくつぶやくのが聞こえたが、刹那には何がバカみたいなのかわからない。
恥ずかしいことを言うな、とよく睨まれるが、それが照れ隠しだとわかる程度には刹那も成長している。
あまりの人波に溺れそうで、早く帰るぞ、と刹那が声をかけようとしたとき、ロックオンに手をつかまれた。
荷物が多少おおくてもお互い片手をあけておいたのは、両手がふさがることに抵抗を覚える習性からだ。
刹那の手を引いたまま、ロックオンは駅のほうへずんずん歩き出す。
経済特区・日本において、ロックオンの背丈は目立つ。海を割るモーゼのごとく、遮るに足るものはなかった。
ロックオンの体温が、グローブごしに伝わってくる。
嬉しくないとは言わない。
けれど。
「子ども扱いするな」
刹那は言った。でも、その手を振り払うことはしなかった。できなかった。
そして、下をむいたままの刹那はロックオンの耳がかすかに赤いのに気づかない。
ふいに、ぎゅうと握る手の強さが増した。
「子ども扱いなんかじゃねぇよ」
刹那が顔をあげると、後ろをふり返ったロックオンと目が合う。
「手を繋ぐ言い訳ができたって喜んでるんだから。そんくらい、わかれよ」
それだけ言うと、ロックオンはぷいと前に向き直ってしまった。
でも、目を見開いた刹那は今度こそ見逃さなかった。ロックオンの耳がびっくりするほど真っ赤に染まっているのを。
だから刹那は、無理やり人混みをかき分けロックオンに並んで囁く。
年齢に似合わない、低くて甘い声。たったひとりにしか聞かせない声で。
「かえるぞ」
はやく、だきあうために。
Fin.
20080702
700hit「刹ロク甘々で幸せな話」
・・・悲しくならないようになんとか頑張ったら、こんなんが出ましたけど、いかがでしょう??
甘くするには、兄貴にちょっとかわいいことを言ってもらうしか道が見つかりませんでした。。。
カジマ様!!少しでも気に入っていただけると嬉しいです。
リクありがとうございました!!