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□さぁ、天国に堕ちよう
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・・・どうしてたんだっけな、セックスした翌朝って。
なんとか思い出そうとベッドの隅で寝転がって頭をひねっても、薄っぺらい左脳の引き出しからはなにも出てきてはくれない。
つーか、腰やら腹が痛い。
タガのはずれた青少年の性欲は、やっぱりすごかった。
カーテンから差し込む光は、いい天気だよーと大声でアピールしてるが、それどころじゃないのだ。
禁欲生活1ヶ月。
勘違い野郎たちとは片っ端から手を切った。
彼女ができたコーラはともかく、グラハムとヨハンはしつこかった。
グラハムは俺が本気がどうか、しばらく様子を見ると言って一応引いてくれた。
ストーカーされたら本気でどうしようと不安だったヨハンは、なんと当の刹那が追っ払ってくれたのだ。
しかも、それでまた惚れなおしちゃったりなんかして。
そんで、やっとここまできた。
・・・未来ある16歳に、AVくらいでしか稼げそうにないゲイをもらってくれなんて、いくら俺だって言えねぇし。
とにかく、退廃的なお先真っ暗人生に、ひとつくらいキラキラした思い出が欲しかった。
それが結局セックスに行き着くのが、俺のどうしようもないところで。
誰も今まで入れたことのない自分の部屋にわざわざ刹那を連れてきたのだって、切なさにどんなに苦しめられても、ここで好きな相手と抱き合ったことを毎夜思い出せればなんて、サムイことを考えたからだ。
けど、ひとつだけ言い訳をさしてくれるんなら。
キスだけで、脳みそがでろでろになった。
いつのたれ死ぬかなんてわからなくても、このキスを思い出して死にてえなぁと思ったくらい、好きになっちまったんだから。
一瞬でもいいから、全部ほしいって思ってなにが悪い。
意外なことに、刹那は童貞だった。
あの絶倫オヤジの血をひいてるうえに、きれいな顔立ちだし、今の高校生は初体験も早いんだろうなぁなんておっさんくさい勘ぐりをしてた俺に、その事実はとほうもない罪悪感と高揚を植えつけた。
初めてのセックスが男相手なんて。
俺だなんて。
どんなにたどたどしいセックスでも、めいっぱい感じたふりをしてせめて自信くらいはつけてもらおうとか。
でも、そういや男と寝すぎて忘れてたけど、男の喘ぎ声なんて本来聞いて気持ちいいもんじゃねぇよなあとか。
とにかく、二丁目デビューしてからこの6年でかせいだ経験値をぜーんぶ総動員して、刹那に気持ちよくなってもらおうとか。
いろいろ考えてた。
でも。
抱き合ったら、そんなことすべて頭から吹っ飛んじまった。
がんがん動いてくる刹那に抱きしめられて、身体じゅうが痛んだ。
たまらなく苦しかった。
そんで、その百万倍うれしかったし感じた。
幸せって痛い、と馬鹿なことを思ったりもした。
俺にとっても昨夜のセックスは初めてづくしで。
ゴムを使いたくなかったのも、後処理なんか気にしてられなかったのも、自分のベッドジーツを汚したのも、朝起きてから下手くそなキスマークを見て頬を赤らめたことも。
そして、幸福と快感に殺されそうだと思ったのも。
サイドテーブルの引き出しからフィリップモリスを取り出し口にくわえて、灰皿に手を伸ばそうとしたら、背中に体温を感じた。
「煙草、吸うのか」
首筋に、刹那の固い髪の毛があたる。耳もとで囁かれただけで、思わず口から甘い息が漏れそうになった。
変態か、俺は。
「ときどき、な」
刹那の前では、意識して吸わないようにしていた。
それに、煙草をくれるような連中と切れたからというのもある。
今はぼんやりしてて思わず手にとったけど、火を付けずにそのまま戻した。