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□痛みじゃない何かで、つないで
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嬉しかった。でもきっと、喜んではいけなかった。
言葉が上手くない自分の想いを、いつだって彼は拾い上げてくれた。
彼自身が酷く傷ついた、揺れたあの瞬間でさえ。
どうして、苦しめることしかできないのか。
自分は彼にたしかに救われたのに。
「まったく、お前はとんでもねぇガンダム馬鹿だ」
そう言って、ロックオンは笑った。
その言葉に、刹那は救われた気がした。
救われて、しまった。
許された、と思うほど愚かではなかったけれど、たしかに刹那の決意は他の誰でもないロックオンによって認められたのだ。
マイスターがこの世界を変えるために、ずべてを捧げているのは当然としても。
刹那が生きる意味が、ガンダムに乗ることが、認められた。
他の誰かなら、刹那はいくら罵られようと貶されようと褒められようと関係なんてなかった。
でも、ロックオンに認められたことは大きな意味をもつ。
刹那が生きて戦うことにとって、何よりも大きな。
けれど。
刹那のその決意も信念もすべては、ロックオンの憎むべき刹那の過去から生まれた。
それすらも、認めて、笑ってくれた。
認めさせて、笑わせてしまった。
ロックオン・ストラトスの中のニール・ディランディは一緒に笑えていたのか?
おまえを生かした憎しみ、マイスターへの道を辿らせた10年間の苦悩は、拭えたのか?
そんなこと、聞けるはずもなかった。
「撃ってくれ」と頼むことすら、刹那には許されない。
そんなことをすれば、刹那・F・セイエイは消える。
何かに縋って何かに選択をまかせて、そうして操り人形にされていたソラン・イブラヒムに戻るわけにはいかない。
ただ。
壊して奪って生きて生きて生きて。神のため、と教えられて。
そんな手に、手を繋いだり抱きしめたりという選択肢をくれたのは、彼だった。
それなのに、与えられた温もりに報いるどころか、苦しみを返した。
ただその事実が、刹那の心臓を痛くする。
ロックオンはきっと、もっと痛い。
ふと刹那が我にかえったのは、自室のドアの向こうに気配を感じたからだ。
ベッドから上体を起こしてそちらを見ると、入るぞ、という言葉と同時にロックオンが姿をあらわした。
彼はこの部屋の解錠コードを知っている。
「なんだぁ?寝てたのか?一緒にメシ食おうぜ」
そう言って、軽く笑ってみせる。
意図して刹那がロックオンを避けていたのに気づかない彼ではない。
黙りこくった刹那を見つめる視線は、彼の心に潜むものをなにひとつ教えてくれない。
「・・・おまえは本当に笑っているのか」
しぼりだした刹那の声が、空気を揺らした。
視線を絡ませたまま、ロックオンは微笑む。
より深く。
ロックオンは優しくて。
優しすぎて、哀しい。
哀しすぎて、愛おしい。
ベッドにのりあがってきたロックオンは、刹那をきつく抱きしめた。
いつもとは逆だ。
刹那は身じろぎもせずに、息を潜めていた。
「俺に、罪悪感なんか抱くなら。もう、俺になにも失わせるなよ。もう俺はとっくに、お前をものすごく大切だって思っちまってるんだから」
生き抜け、刹那。
そんでいつか、世界は綺麗だなぁって顔ぜんぶ使って笑うんだ。
ロックオンの顔は見えない。
ただ、腕がかすかに震えている気がした。
返す言葉は見つからなかったから、刹那は力いっぱい抱き返す。
この肋骨の軋むような痛みを、せめてふたりで分け合いたいと思った。
しばらく抱き合ったままでいると、ロックオンが小さな声でつぶやく。
・・・今だけ。名前を、呼んでくれ。
「ニール」
好きになったことを謝れなくて、すまない。
刹那は彼の美しい名前に続くその言葉を、喉もとでかみ殺した。
20080716
1111hit「19話派生。罪悪感を抱いた刹那がロックオンと距離を置こうとする話。両片思いの切甘」
灰無サマ!お待たせしました。
リクに答えられているかものすごい不安です。「絆」は思い入れがありすぎて。。。
連載のほうでも触れる予定ですが、そちらは兄貴視点を予定しているので勝手に刹那視点にしちゃいました。連載のほうはまたふたりのポジションや距離がちょっと違いますが。とりあえず、すみません。。。
タイトルは文字通り「絆」にかけてみました。ほんと、このサブタイトルは素敵だと思います。
灰無さま!リクありがとうございましたー!!