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□不健全で幸せな午後に
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昼休みが終わって、たまっていた生徒たちを教室へ追いやると、ロックオンはやっとひと息ついた。

年齢が近いうえに、男の保健医が珍しいからか、しょっちゅう生徒たちが理由をつけては保健室にやってくる。
子ども好きのロックオンとしては嬉しいが、授業をサボらせるわけにはいかない。

しばらくして、コーヒーでも飲もうかと立ち上がったとき、がらりと扉がスライドした。

「ロックオン」


「失礼します、だろ」

ロックオンは苦笑しつつ、注意した。

黒髪に赤褐色で印象的な瞳。
一年生の刹那・F・セイエイだ。
五限は体育なのか、珍しいジャージ姿。

刹那はつかつかとロックオンの傍に寄ってくる。
なんだ?とロックオンがその顔を覗き込むと、「失礼します」の声のすぐ後に、刹那の乾いた唇が重ねられる。


ぽかん、と驚きに軽く開いていた唇に、刹那の舌が侵入しようとした。

そこでようやく我に返ったロックオンは、刹那の肩を掴んで引き剥がす。

「やめろって!」


そう言って睨みつけると、刹那はかすかに眉をさげて淋しそうな顔をするものだから。


「・・・誰が来るかわかんねぇんだからさ」

そう言葉をつけたす自分に、ロックオンはほだされてるなぁ、とひとりごちた。


「心配ない。鍵はかけたし、外の札を外出中にしておいた」


淡々と言ってのける刹那に、ため息もでない。

そんなロックオンを気にせず、刹那はぎゅうと抱きしめてくる。


「にしても、サボりじゃないだろうな」

嬉しくないわけじゃないから困る、とロックオンは思う。

でも、刹那は真面目な生徒で、遅刻もしなければサボりもしないと分かっている。

秘密のお付き合いなんてものしているふたりが会うのは、もっぱら放課後で。
しかも放課後だって、いつ部活で怪我した生徒が来るか分からない。

帰宅部の刹那は、ロックオンの仕事が終わるまで教室で携帯を片手に待っていることがほとんど。

申し訳なく思って先に帰るようにロックオンが言ったって、「俺があんたを待ちたいだけだ」なんて返されるばかりで。
これでほだされないヤツがいたら、お目にかかりたいとロックオンは思う。



「サボりじゃない」

しぶしぶロックオンから離れた刹那は、ジャージをまくりあげて右の足首を見せた。
少し腫れている。


「体育でやったのか。そこに座っててくれ」

刹那にそう言って、ロックオンは戸棚から湿布を取り出した。

デスクの向かいにあるソファに座る刹那の隣りに腰を下ろす。


「これでよし」

刹那の足首に湿布をはって、来室者のリストに刹那の名前を書いておく。

「にしても、珍しいなぁ。刹那が怪我するなんて」

運動もソツなくこなすはずなのに、と不思議に思ってロックオンは嫌な予感を覚えた。


表情を曇らせたロックオンに気づいて、刹那が顔を寄せてくる。


「どうした?」


「あのさ、まさかとは思うけど、わざと怪我したとかじゃないよな?」


刹那は何度かまばたきをしてから、「ちがう」と低い声でつげた。

「そっか、そうだよな」

なに言ってんだろうなぁ、俺。
そう笑ったけれど、ロックオンには刹那が嘘をついたことくらいすぐわかる。

当たり前だ。
好きなやつのことなんだから、それくらいわかる。
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