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□夜を待ちわびて
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カンカンと靴音をさせて薄暗い階段を下りると、古めかしい黒い扉がやる気なさげにたたずんでいる。

ここはマスターがお遊び半分で始めた店らしいけど、バイトを含めて顔のいい連中が出入りするからなのか、分かりにくい場所にあるわりに二丁目でそこそこ名前が知れてる。

まぁ、あの変態マスターに抱かれにわざわざ来るやつもいるらしいけど。
変態で絶倫でサドの相手なんて、頼まれたってもう俺はごめんだ。


しょっちゅう入り浸ってる俺がいつものようにドアをくぐると、「いらっしゃい」と言ったアレルヤの隣で、ティエリアがため息をついた。

バイトが客に愛想悪くていいのか、と思うけどティエリアだからしょうがない。
こういうのが好きで通ってる客もいるだろうし。

「・・・なんだよ、人の顔見てため息なんて失礼だろ」

俺はそう言ってカウンターのいつもの席に陣取る。
今日はまだ来てないバイト君目当てでここに来る俺に呆れてるのか、なんて考えたけど違ったみたいだ。

「タイミングがちょっと悪かったかも」

アレルヤが苦い表情をつくった。

俺が首をひねってると、ティエリアが「帰るなら今のうちですよ」と薄暗い店の奥を目線で示した。



なんだぁ?とそっちに視線を移すのと同時に、めんどくさそうな予感が俺を包む。

ティエリアがもっと分かりやすく言ってくれれば速攻で帰ったのに、とちょっとだけ恨めしい気分だ。
・・・でも、もうちょっとしたら刹那が来るはずだし。
刹那に会わずに帰るのはもったいなさすぎる。


そこには、にっこりと笑みを浮かべた長身の男が立っていた。


「ずいぶん久しぶりだ、ロックオン」

「・・・おう、ひさしぶり」

俺の返した笑みはきっとひきつってたはずなのに、ヨハンは少しも気にした素振りを見せず、グラスを片手に俺の隣りに腰かけた。


「電話番号を変えたのか?この前かけたが、通じなかったぞ」


「あぁ、ちょっとな。今は携帯もってないんだ、悪い」

今まで相手してた奴らをひとりずつ切るのが面倒で、ちょっと前に携帯を解約した。
ほんとに会いたい連中だったら、携帯なんかなくても店にくれば顔を見れるし。


「金が尽きたのか?なら、新しいのを買いに行こうか」

そう言って、ヨハンは右腕を俺の腰に回してくる。
アレルヤが苦笑いで俺を見つめている。
ティエリアはヨハンが嫌いらしく、カウンターの奥に引っ込んでしまった。

叩いて手を振りほどいてもいいけど、相手がこいつだとなぁ・・・。

俺の顔色や素振りを気にしてくれるような輩じゃないから、余計ぐいぐい迫ってくる可能性があるし。


・・・なんで俺、こいつと寝たりしたんだろう。

少し前の自分に、問いただしてみたい。
よっぽど相手がいなかったのかなぁ、なんて失礼なことを思ってみたりして。
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