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□このきもちを愛とよぶなら
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同じ顔のふたりを並べて間違い探し。
いつだって、正しいのは求められるのは基準になるのは。
俺じゃ、なかった。



「昨日はね、前に教えてもらったジャガイモのスープを作ったの」


とあるドアの前を通ると、ライルの耳にそんな声が聞こえてきた。思わず足が止まった。
「みんな、美味しいって言ってくれたの。刹那とティエリアが珍しくおかわりしたんだよ」と続く声に返事はない。
それでもただ穏やかに、ひたすら優しくいとおしそうに言葉は紡がれる。


いつ目覚めるかもわからない、もう目覚めないかもしれない。
それなのに、どうして。
俺が、俺でさえ、この部屋に入ったのは一度きりだったのに。


「ストラトスさん?どうしたですー?」


ふいに逆方向から声をかけられて、びくっと肩が震えた。
トレイを持ったミレイナが、ぼうっと通路に突っ立っていたライルを見て声をかけたのだ。


「いや、何でもないさ。そっちこそどうした?」

なぜか胸にこみ上げてくる後ろめたさを、誤魔化すように問い返した。
食堂やクルーたちの部屋よりずっと奥まったところにある医務室に、ケガもないのに来る人間は限られている。
さらにミレイナは、ドアの向こうで眠る彼と直接の面識はないはずだ。


「フェルトさんと一緒にご飯を食べるです!きっとこっちにいると思ったです」


元気のいい声が中にも届いたらしく、ドアが開いた。
「・・・ミレイナ?」という声に気まずさが膨れあがり、ライルは踵を返して通路を足早に歩いた。

大人気ないし、少し変に思われたかもしれない。
でも顔を合わせて気まずいのは向こうもだろう、と自己弁護をする自分が嫌で、ライルは舌打ちをした。



トレミーに連れてこられて他のクルーと顔を合わせた後すぐ、ライルが刹那に案内されたのは医務室だった。

ドアの向こうは耳が痛くなるほどの静寂が支配していて、真っ白なその部屋はどこか神聖な雰囲気さえあった。
様々な器具が目についたが、それ以上に目を引いたのは部屋の中央にある医療カプセル。
それがカプセル内に酸素を送る微かな音だけが、いやに耳につく。


刹那は立ち尽くすライルの横をすり抜け、カプセルの前に立った。
そして、ぽつりとひとこと「すまない」と呟いた。
そのときは、ライルの片割れをこんな姿にしたことへの詫びだと思っていた。

後から聞いて分かったのは、その言葉にはライルを戦いのただ中に連れてきたことを眠り続ける彼に謝る意味もあったということ。
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